歯科経営者に聴く - 南青山デンタルクリニック 青山健一理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 健青会 南青山デンタルクリニック 青山 健一 理事長

南青山デンタルクリニック

開業は1992年。広島大学歯学部を卒業してからわずか2年後の開業だった。5年間は赤字だった。増患対策もしたが一向に増えない患者様。眠れない日が何日も続き、広島に帰ろうかとも思った。5年目に本を書いたのがきっかけでようやく一息つけるようになった。銀座線・青山一丁目と外苑前駅のほぼ中間地点、東京でも屈指のストリート、青山通りに面した一等地で開業する青山健一理事長は、苦難の時代を糧として、「患者様に感謝の気持ちを還元したい」と言う。日々思うことは、南青山デンタルクリニックで働くスタッフの幸せ。スタッフが働きやすく、幸せならば患者様にもそれが伝わり、よりよい歯科診療ができると考えている。

医療法人社団 健青会 南青山デンタルクリニック 青山 健一 理事長

医療法人社団 健青会 南青山デンタルクリニック 青山 健一 理事長

プロフィール

  • 1965年 広島県生まれ
  • 1990年 広島大学歯学部卒業
  • 1992年 南青山デンタルクリニック開院
  • 2001年 医療法人社団 健青会 設立
  • ≪主な著書≫
  • 『抜かない矯正専門のDr.が薦める「1年で治る矯正治療」』(ごま書房)
  • 『抜かない矯正の最新知識』(桐書房)
  • 『噛み合わせを治せば肩こり、頭痛が消える!』(同文書院)
  • 『知らなきゃ損する歯の矯正のお話』(冬青社)
  • 『20代社員の使い方にはコツがある!』(明日香出版社)
  • 『よくわかる家庭の歯学』(桐書房)
  • 『開業医として成功するには成功する常識がある』(クインテッセンス)
  • 『誰も思いつかなかった歯科医院経営の秘訣』(クインテッセンス)
  • 『南青山発「落ちこぼれ歯医者の逆襲」』(デンタルダイヤモンド社)
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開業に至るまで

歯科医を目指された経緯についてお聞かせください。

将来の職業について考える際、高校時代にあれこれ悩むものですが、社交性があるわけでなく、会社の中でうまく立ち回ることもできない、酒も飲めないのでサラリーマンには向かないだろうと勝手に思いこんだりして(笑)かといって、自営業の父の後を継いで商売をしたいという思いもありませんでした。ならば子どもの頃、鼻やのどが弱く、たびたび耳鼻科のお世話になったので医学部に行って耳鼻科の医者になろうと。しかし、人から話を聞くと、大学病院の医局も組織の中の歯車として働くわけで、だったらはじめから開業の道をめざす歯学部に入って歯科医になろうと思いました。

歯学部での6年間はどのような学生生活でしたか。

大学に入るまでは合格するために一所懸命勉強しましたが、国家試験は普通に勉強していれば受かるということを聞いていたので、入ってからは学業よりも自分の性格を変えることに力を注ぎました。社交性を身につけたいと思いまして、テニスのクラブ活動や英会話の勉強に熱を入れました。テニスは大学からのスタートだったので、レギュラーを取るのに自分なりに頑張りましたね。ネットプレーが得意でした。何しろプレッシャーに弱いのでストロークに持ち込まない(笑)
英語は将来外国で開業するのもいいかな、という漠然とした希望と歯科医院を経営する上で他院との差別化という意味で英語力があれば有利なのではないかという思いもありました。

既に経営者への準備を始めていたのですね。

そうですね。親からも「人を引っ張るタイプじゃない」と言われていましたし、自分でもフロントランナーになって、ぐいぐい引っ張るのは得意でないと思っていました。ですから、学生時代は自分を変えたかったのです。トップに立って何かをやろうというほどではありませんが、それにしても、もう少し社交性があったら社会に出ても苦労しなくてすむのではないかと考えて、クラブ活動や英会話の勉強に力を入れました。

歯科医の道を選んで後悔はありませんか。

歯学部を選んだのも特別な理由があったわけではないのですが、医学部から歯学部へ進路を変更して本当によかったと思っています。今でもそうですが、私の人生は自分で決断してというより、何かの力である方向に導かれているという場合が多いのを感じます。
結果が出るまでは自信が持てませんでしたが、今は頑張った甲斐があったと思っています。

卒後に東京での勤務を選ばれた理由を教えて下さい。

広島で開業するつもりでいたのですが、講習会などで東京に来る機会が多かったので、だったら東京で2~3年勉強するのもいいと思い、東京で勤務医生活をスタートさせました。当時、新卒の未経験者を雇ってくれる所がなかなかなくて困りました。そんななか蒲田の歯科医院で受け入れていただき、10カ月ほど勉強させていただいた頃に広島大学の先輩から声をかけていただき、都心の審美歯科も経験したくてこの南青山デンタルクリニックに勤務しました。

勤務2年で開業とは随分はやいイメージですが。

審美歯科を中心に展開している歯科クリニックでしたが、勤務中に居抜きで譲りたいというお話をいただき、好条件だったので思い切って開業したのです。27歳だったのですが、若気のいたりといえばそれまでで、何度も広島に帰ろうと思いました。それくらい、経営的には厳しかったです。

勤務医と経営者では全く違うということですね。

赤字の5年間で本当に鍛えられました。クリニックはメイン通りから奥に入った場所で、近隣の患者様向けではなく、雑誌広告などに費用をかけて遠方から審美歯科を求めてくる患者様向けでしたので立地はあまり関係なかったのかもしれません。ところが、私は新規で一般歯科として開業したので立地の悪さは響きました。当時は、患者様本位の治療さえしていれば受診してくださると考えていましたが一向に患者様は増えない。やはりメイン通りからはずれているからだという思いがあったので、数百メートル離れた場所に移転しました。面積は小さくなったのですが、当時はメイン通りにさえ出ればやっていけると考えていました。しかし、相変わらず患者様は集まらない(笑)
経営に関する本を読んだり経営セミナーにも参加しました。資金がなかったので大きな宣伝はできませんでしたが、電柱・消火栓・電話帳の広告、チラシ配りもポスティングなど思いつくことは何でもやりました。それでも患者様は増えませんでした。

開業と閉院は結婚と離婚に似ているようなところがあります。開業は勢いでできますが、歯科医院をたたむのは大変です。矯正の患者様をどこに紹介するかといったことも含めてどうしたらいいのか悩みましたが、かといって続けても先々の見通しが立たない状況でした。
心労がたったのか肝臓を悪くして1カ月間入院してしまいました。

それでもたたむしかないと決めて広島に帰る準備をしていた頃に書いた『噛み合わせを治せば肩こり、頭痛が消える!』(同文書院)という本を出版したのがきっかけでようやく患者様が少しずつ増えるようになりました。そうこうするうちにインターネットが普及してきて、患者様の勧めもあってホームページを立ち上げると患者様が増えるようになりました。それでホームページを充実させると、さらに新規の患者数が増えて一息着くことができました。

「何かの力である方向に導かれている」と言う言葉が印象的です。

いよいよ経営が難しくなって広島に帰ろうと決めてから、スタッフに加わった方がとてもよい方で、その方が加わってスタッフとの関係がとても良好になりました。加えて書いたものを出版しましょうという話をいただき、それが思いのほか好評だったのです。そしてインターネットの普及で患者様への認知度が高まった。そんな経験が重なって、私個人の力を超えた何かが働いていると思うようになったのです。
もがいている中で入院した時に、「生きていられることだけでも幸せだ」と何か悟った時から、道が開けていった気がします。

経営理念

経営理念についてお願いします。

昨年の3月に現在地に移転したのを機に歯科医院らしくない歯科医院を感じていただきたく、内装を大きく変えました。最初のクリニックから4軒目になります。
内装に力を入れた最大の理由は患者様に感謝の気持ちを還元したいという思いと、よりブランドを実感していただけるような雰囲気の提供を考えました。
患者様は歯科医院の内装によって通う医院を決めるわけではありませんから内装にこだわるよりも院内を清潔に管理すること、優れた診療技術を提供することを前提にした上で内装にもこだわり、ハードとソフトの両面から患者様に満足していただく。それが感謝の気持ちを還元するということだと考えています。
感謝の気持ちを患者様に伝えることで患者様に喜んでいただき、私たちもハッピーになれる。スタッフのために、患者様のために自分ができること、小さなことでいいのですが、他者のためにできることを1ずつ積み重ねていくことによって自分で自分を褒めてやることができ、自分を好きになれる。そんな風に思って経営しています。

診療方針

診療のコンセプトをお聞かせ下さい。

自分がして欲しい治療、サービスを患者様にも行う。自分がして欲しくないことは決して誰にもしない。この当たり前のことを私も含めてスタッフ全員が徹底して追求していきたいと考えています。現在、これだけ多くの歯科医院がある中で、南青山デンタルクリニックがあってよかったと言っていただけるよう努力していきたいと思っています。
私もスタッフも「利他」の精神、すなわち患者様のため、他のスタッフのために、自分がして欲しいことをする。そのような精神で日々精進しています。

具体的にお願いします。

具体的には、十分な治療とアフターケアに責任をもちます。最高のサービスを提供します。スタッフのレベルが高いとお褒めいただくことが多いのですが、それが私たちの自慢です。
機能的であることはもちろん審美的にも正しい治療を行います。多くの症例に基づいたからだに快適な噛み合わせを念頭において治療を行っています。矯正治療でも他の治療でも患者様が納得されるまで十分な説明をし、患者様が質問しやすい雰囲気づくりを心がけています。そして通院回数は最小限に、つまり効率的な治療を心がけます。また、完全予約制なので、予約時間には必ず治療を開始できるようにし患者様の時間を無駄にしません。私たちは1日にできるだけ多くの患者様を診るのではなく、できるだけ多くの満足を患者様に提供したいと考えています。

すべて歯科診療としては当たり前のことばかりですが、当たり前のことを少し高いレベルで実行するのが大事だと思っています。他でやっていない特別の治療を喧伝するのではなく、当たり前のことを少しだけレベルを高くして、それを継続することが必要だと思っています。

自費と保険の割合について、お聞かせください。

自費が4割、保険が6割です。説明を丁寧に行っているうえ、もともとの意識が高い患者さんが来院されていますので、自費の割合が高いですね。近隣に玉川学園や金井といった高級住宅街があることも要因かもしれません。

増患対策

やはり先生の著書が大きな役割を占めているのでしょうか。

最初は大きなきっかけになりました。

南青山デンタルクリニックそしてホームページは患者様よりもっと情報が欲しいとの勧めで作ったのですが、どのような診療施設で治療をしているのか、院長やスタッフの考え方などを知り、院内の様子を知るという意味では有用性は高いと思います。より多くの方に南青山デンタルクリニックの存在を知っていただくという意味で、インターネットの普及は増患対策に寄与したと思います。現在の集患はほとんどホームページによるものです。
しかし、現在のように右肩あがりで患者様が増えた最大の理由はスタープレイヤーがいたからではなく、患者様から医療チームとして高く評価されたからだと考えています。1人ひとりのスタッフが当たり前のことを当たり前以上にした結果、患者様に満足していただき、結果として患者様が増えたのだと理解しています。

スタッフ教育

先生のスタッフ教育法を教えて下さい。

開業後のしばらくの間、すべての施術を院長である私がしないと不安に感じる時期がありました。しかし、すべてのことを自分1人ではできません。たとえできたとしても1人あたりの患者様にかける時間は短くなります。それでは患者様に満足していただくことはできないので、人を育てることに徹底しています。といって特別なことをしているつもりはありません。私自身が正しいビジョンをかかげ、先頭に立って仕事に情熱を注ぐことがスタッフ教育につながると信じています。スタッフは院長の後ろ姿を常に見ています。私の後ろ姿を見てスタッフが人間的に成長していくことが大事です。スタッフが成長することによって私自身もまたスタッフに成長させてもらうのだと考えています。

マニュアルではなく心で接すればおのずから「利他精神」は発揮されると...。

南青山デンタルクリニックスタッフに心を開いてもらうには、私がスタッフの味方であるという信頼感が必要になってきます。スタッフとの関係は親と子と思ってつきあいます。テクニックや駆け引きは必要ありません。スタッフのモチベーションを高めるには、彼女らが南青山デンタルクリニックに勤めてよかったと思えるような環境を整えることが大切です。

内装の一新にはスタッフに気持ちよく働いてもらいたいという思いも入っています。気持ちよく働いてもらうことで、その気持ちを患者様に還元できるのではないかと考えています。

隅々まで掃除を徹底しなさい、挨拶はきちんと、お辞儀の角度は何度が最適であるというような具体的な指導はいっさいしません。私がミーティングで言うことは、私たちも患者様も幸せになりましょう、ということに尽きます。南青山デンタルクリニックで働くスタッフ、患者様が幸せになるためにどうするかは、個々のスタッフが考えることですが、みんなが幸せになるためには「利他」の精神が大事だということを理解して働いているから「スタッフの質が高い」という評価が得られるのだと思います。

私がレベルの高いスタッフを信頼し、スタッフが私を信頼してくれるような関係が築かれれば、スタッフ同士も信頼しあいます。チームとしての信頼感が患者様に安心感を与え、満足していただける診療が行えます。

採用にあたってのポイントはどんなところでしょうか。

収入がいいからという人よりも、成長意欲のある方、働きがいを求めて応募してくる方を採用したいと考えています。良い人材が欲しいので余裕をもって募集しています。試用期間中もその人を十分に把握して、私の方針に共感できる方かを見極めることができますから長期にわたって勤めていただくことができます。入社時に初任給を高くして応募数を増やすよりも、向上心のある人に入っていただいて、入社後に、他の医院よりもいい待遇をしていきたいと思っています。「とにかく入社してもらう」という考えではなく、勤務年数が経つにつれて、物心両面で当クリニックに入社してよかったと思ってもらえるクリニックにしたいと思っています。

今後の展開

分院を開設する予定など、今後の展望はいかがですか。

今のところ、分院を開業する予定はありません。それよりもスタッフの充実に力を注ぎたいと考えています。現在、医師4名、歯科衛生士8名を含め15名のスタッフがいますが、個々のレベルアップをはかり、スタッフを増やすことも考えています。現在、ユニットが7台あるので、歯科医師が増えればもう少し効率的な診療ができると思っています。
顧客満足と社員満足を突き詰めて行った先に、そこから分院展開していくことがあれば進めて行きたいと思っています。

開業に向けてのアドバイス

歯科医向けのセミナーを定期的に開催していますが、開業がゴールというのでは生き残るのは難しい。自分は何のために開業するのか、目指すゴールはどこにあるのか、どんな歯科医師になりたいのか、を明確にして開業すれば、しばらくの間軌道に乗らなくても頑張れます。開業する目的は人によって異なりますが、私は患者様に喜ばれる歯科医師になりたいと思いました。開業当初は苦労しましたが、今では患者様から「スタッフのレベルが高い」と評価されるようになって、開業して本当によかったと思えるようになりました。これから開業される先生も「開業してよかった」と思えるようになっていただきたいと願っています。
『南青山発「落ちこぼれ歯医者の逆襲」』(デンタルダイヤモンド)、このような本を書かずに済むような準備を怠りなく(笑)

プライベート

今は仕事が趣味のようになっています。見知らぬ方から私のブログを見て感謝されたり、患者様から感謝される。そういうことがたびたびあるので仕事が楽しいですね。そうは言っても家庭にまで仕事を持ち込むことはあまりよくないので、家庭では気持ちを切り替えてリラックスしたり、家族サービスをしていますよ。まだ子どもが小さいので自分の本を読む時間もあまりとれませんが、暇ができたら好きな本をじっくり読みたいですね。

【タイムスケジュール】

  • 医療法人社団 健青会 南青山デンタルクリニック 青山 健一 理事長
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