歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人翔己会 甲斐智之(さとし) 理事長

医療法人翔己会は、かい歯科、南茨木プラザ歯科、かい矯正歯科インプラントセンターの3施設で構成されている。かい歯科、かい矯正歯科インプラントセンターは兵庫県尼崎市の阪急神戸線武庫之荘駅から徒歩1分、南茨木プラザ歯科は大阪府茨木市の阪急京都線、大阪モノレールの南茨木駅から徒歩3分といずれも交通の便に恵まれる。それゆえ競合軒数も多いが、法人全体で70人あまりのスタッフを擁し、地域のリーディングクリニックとして成長を続けている。
甲斐智之理事長は「経営には勘が必要である」と言い切る。そういった勘を身につけるために勤務医時代、開業後にどのような取り組みをされてきたのかを中心にお話を伺ってきた。

医療法人翔己会 甲斐智之 理事長

医療法人翔己会 甲斐智之(さとし) 理事長

プロフィール

  • 1964年に兵庫県姫路市で生まれる。
  • 1992年に長崎大学歯学部を卒業後、医療法人緑和会に勤務する。
  • 1997年に兵庫県尼崎市に、かい歯科を開業する。
  • 2000年に医療法人翔己会を設立する。
  • 2002年に大阪府茨木市に、南茨木プラザ歯科を開業する。
  • 2007年に兵庫県尼崎市に、かい矯正歯科インプラントセンターを開設する。

勤務医時代に「経営の勘」を磨く

まず、歯科医を目指された経緯について、お聞かせください。

医療法人翔己会もともと歯科医を目指したということではなく、医療に関する仕事をしたいという希望がまずあって、その中で歯科医という職業を選んだという感じですね。歯科医は手に職を持ち、自分一人で何かできるというイメージもありました。我々の世代は「ブラックジャック」のかっこよかった姿を見ていますしね(笑)。兄が医学部に進学し、その後外科医になったのですが、ものの考え方など兄から受けた影響も大きかったです。

長崎大学をご卒業後、医療法人緑和会に就職されていますが、これはどういったきっかけだったのですか?

もともと出身である関西に戻って就職したいと思っていました。当時は今のような臨床研修制度はなく、歯科の場合は大学病院というよりは開業医に勤務するのが当たり前でしたので、できれば患者さんの数が多い、大きな医療法人に行きたかったんですね。そこで滋賀県内を中心に6施設ぐらいの分院があった緑和会を希望しました。緑和会の理事長は大学のテニス部の先輩というご縁もありました。

緑和会で学んだことの中で、どんなことが印象に残っていますか?

一般的な技術はもちろんですが、「経営の勘」について学べたことが良かったですね。私達の歯科医療は、新製品を次々に開発していくような華やいだ職業ではありません。ともすれば、凡帳な変化の少ない、流れの止まった状態が生じがちです。常に医院を活性化した状態に保つためには、やはり院長が微妙な風向きの方向、強さ等を肌で感じたり、スピーディーに対応していくことが最重要になります。また、現場では方向転換したり、速度を変えたりと、まさしく即座の勘を働かせながら状況判断を行い、指示していく隊長的役割もします。この隊長的役割にこそ、歯科医院経営があると思っています。例えばインプラント専門の歯科医院に行けばインプラントの技術に関しては習得が容易ですが、経営について学ぶチャンスはあまりないでしょう。しかし緑和会では患者さんが少ないときにどう対応するか、危機をどう乗り越えていくかといった、先々の経営に役立つことを幅広く勉強できました。

患者さんが少ないときは、どんな対応をなさったのですか?

我々はビラを撒くわけにはいきませんからね(笑)。一人の患者さんのニーズをどれだけ引き上げられるか、様々な立場から考えていくのです。矯正の立場ならどう考えるか、補綴の立場ならどう考えるかというように色々な立場に立って考えていくと、ニーズを満たす要素も増えます。おのずと一人の患者さんにかける時間も長くなり、患者さんの満足度も向上します。そうしますと、1、2か月後にはご家族などが来院され、目に見えて増患の効果をもたらします。

医療法人翔己会分院長も経験なさったそうですね。スタッフの求人、スタッフとのミーティング、連携の取り方など開業後に必要なことを経験できました。今の世代は違いますが、私たちの世代は勤務医を何年か経験したら開業するのが自然な流れでしたし、私の場合はもともと開業して会社組織を作りたかったので、開業1年前から準備を始めていきました。

1997年に、かい歯科を開業 開業地はどうやって選ばれたのですか?

滋賀を出て、阪神間で開業したいと考えていました。緑和会の理事長が「真夜中のドライブは場所探しに最適だ」とおっしゃっていたので、阪神間の駅前を徹底的にドライブしました(笑)。真夜中は道路も空いていますし、効率的に回れましたね。

やはり駅前にこだわりがあったのですか?

緑和会時代にはJR東海道本線の瀬田駅前で勤務していたので、駅前で開業するイメージが最初からあったのです。

医療法人翔己会武庫之荘駅前のこちらの物件をご覧になったときの第一印象をお聞かせください。37坪あり、イメージ通りで良かったです。既に空いていましたので、すぐに工事に取り掛かりました。最初はチェア3台だったのですが、現在は7台です。幸いなことにビルの上がワンルームマンションになっていますので、院長室、技工室、スタッフルームなどをワンルームマンションに移すことで、チェアの増設をまかなえる広さを確保できました。

競合も多いエリアですが、増患対策はどのようになさったのですか?

競合は確かに多いですね。当時で7、8軒、今では10数軒ありますから。開業した1997年頃の歯科医院には「脱・歯科医院」を目指す雰囲気がありました。現在のほかの歯科医でスタッフがサッカーの青いユニフォームやサンタクロースのコスチュームを着たりするような感じですね。私どもではそこまでエンターテイメントにこだわったわけではありませんが、洋楽や歌謡曲などのBGMを流したり、当時珍しかったテレビ付きのチェアにしたりといったスタンスを多少は出していき、そこが地域の患者さんに訴求したのかもしれません。

最初は保険診療がメインだったのですか?

世間では当時、保険診療をアバウトに捉えている風潮がありましたが、私どもでは保険、自費にかかわらず、丁寧に診ていこうと考えていました。3年目には技工室を設置しましたが、これによって保険診療の質が上がったと確信していますし、複数医師の体制を支える機能を果たしています。

南茨木プラザ歯科 かい歯科を開業されたときから、分院の展開を視野に入れていらしたのですか?

医療法人翔己会南茨木は阪急京都線なので、十三で乗り換えれば武庫之荘からの移動も容易です。また自動車でも高速を使えば20分程度で行ける場所です。本院との距離が離れすぎはよくないですから、ベストの立地でしたね。現在は分院長、常勤歯科医師1人の体制です。一般歯科、小児歯科に加えて、矯正や口腔外科にも取り組んでいます。私も週に1日は朝からフルタイムで入って、現場で診療しています。

かい矯正歯科インプラントセンター インプラントは最初からなさっていたのですか?

医療法人翔己会かい歯科を開業して5か月目に初めての患者さんがいらっしゃり、その後はずっと増患しています。当初から高度先端医療を行いたいと思っていましたので、歯科衛生士、技工士、私以外の歯科医師を集めて、体制を構築していったのです。その後、オペ室も個室にして独立させました。

そういった経緯がかい矯正歯科インプラントセンターの開設につながっていったのですね。

このセンターに入れている設備はかい歯科時代の設備とは全く異なります。「ものづくり」は本当に大変でしたね。当初予定していた予算よりはるかに超えてしまいました(笑)。患者さん全員が高度先端医療を望んでいるわけではありませんが、その中で少なからず高度先端医療を望まれる患者さんもいらっしゃいます。これはひとりの歯科医師で行えるものではなく、チームを組まないと不可能です。特に治療後のメンテでは歯科衛生士の存在が不可欠ですし、スタッフ確保には腐心しました。

矯正歯科も充実していますね。

弟が矯正専門医で、このセンターの院長を務めています。噛み合わせは全ての基本ですし、矯正の必要性はますます高まるでしょう。2007年11月に開設したばかりですので、症例数などはこれからですね。

経営理念

経営理念について、お話し頂けますか?

まずは「医療としての本質を衝いたものを患者さんに提供しよう。結果として、患者さんに喜んで頂き、リピーターになって頂ける感動を提供しよう」ということですね。そこではスタッフも楽しく勤められないといけません。歯科医師向けに医療の勉強会も積極的に行っています。私どもに勤務している歯科医師に「ここに来てよかったなあ」と思ってもらえれば幸せです。その積み重ねでスタッフが喜びや感動を覚えてほしいです。「手に職」をつけることで、患者さんの治療を通じての自己成長を経験してもらえたらと願っています。歯科医師のみならず、歯科助手・歯科衛生士・技工士もすべて同じです。

医療法人翔己会医療の勉強会では、どんなことを話されるのですか?治療のことだけでなく、経営についても話しますよ。経営といっても収支などの金銭的な面にとどまらず、スタッフとの関わり方や歯科の置かれている現状など多岐に渡っています。教育するというより、一緒に考えましょうというスタンスですね。
とにかく「歯科医療を本気で考える」ことが大切なのです。患者さんのニーズとしては痛いところだけを治してほしいのかもしれませんが、表面的な満足で終わってしまうのではなく、別の問題点がないかどうか徹底して追求してほしいですね。それは保険診療の範囲内であっても十分に可能なことだと思います。

現在されている増患対策について、お聞かせ頂けますか?

現在の患者さんに対して、より良いと思われる治療のレベルを引き上げるような努力をしています。矯正の患者さんの中にもホワイトニングをしたい、歯肉の色が気になるなど、異なった主訴があります。そういったニーズを引き出し、より良い治療を行うことが増患対策の最大の柱です。患者さんが満足されれば、その後、他の患者さんを連れて来て頂けます。それからホームページですね。ブログなども盛り込んで、情報量を増やしてはいますが、さらに院内の中味が見えるような透明性を高めるべく、近々リニューアルを行う予定です。

人材育成にも力を入れていらっしゃいますね。

翔己会全体での技術力を向上させ、患者さんへ反映させないといけません。スタッフのモチベーションを向上させ、自己成長を促すことが大切です。現在は歯科医師卒後研修機関、衛生士歯科実習施設になっていまして、これからの新しいスタッフへより積極的に教育を行っていきたいと考えています。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

医療法人翔己会昨年オープンさせた「かい矯正歯科インプラントセンター」のような形態で他にも開設していきたいという希望はありますが、そういった「ものづくり」は現時点では一旦終了だと考えています。最初にかい歯科を開業してから10年は高度医療を視野に入れつつ、保険診療を頑張ってきました。今は審美や補綴に意欲を燃やし始めたところです。今後は保険診療は当然ですが、高度医療の症例の質も高めていきたいですね。

歯科医師も募集されていますが、メッセージをお願いできますか。

正確な治療を身につけたい方に来て頂ければと思います。また二極化が進む現在ゆえに、勤務医時代にまともな経営感覚をつけることが重要と考えます。私どもの持っているノウハウを全て享受します。

開業に向けてのアドバイス

小手先の技術にこだわるのではなく、医療の本質を衝いて患者さんときちんと向き合っているのかを日々考えることが必要でしょう。患者さんの意見を徹底的に伺う姿勢が問われます。開業当初は院長一人でそれを行うわけですが、徐々にチームでの体制を敷いていけるような準備をしないといけません。そのチームとは歯科医師だけでなく、歯科衛生士や技工士なども含みます。スタッフの教育にどれだけ真剣にできるかが大切です。また女性スタッフが働きやすく、遣り甲斐を持って働けるような快適な職場環境を構築することも望まれます。あとは「経営セミナー」などでアドバイスされることを少しずつ取り入れていけばいいでしょう(笑)。

プライベート

大学を卒業するまではテニスに明け暮れていました。でも歯科医師になってからは、なかなか時間が取れませんね。趣味といえるものもあまりありませんが、最近の休日はゴルフの素振りをしたり、子どもと遊んだりしています。