歯科経営者に聴く - 中尾歯科クリニック 中尾浩之院長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

中尾歯科クリニック 中尾浩之 院長

今月は兵庫県西宮市に2007年に開業したばかりの中尾歯科クリニックをご紹介する。場所は阪急今津線甲東園駅から歩いて1分ほどのマンションの1階である。阪急今津線は西宮市と宝塚市を結ぶ路線で乗降客も多いが、甲東園駅は関西学院大学の最寄駅であることから静かな文教地区が広がっている。
中尾浩之院長は朝日大学を卒業後、大阪大学歯科補綴学第二講座に入局し、さらに大阪大学大学院歯学研究科で歯科理工学を専攻した。「その研究で得た経験が開業後の自信となっている」と語る。開業わずか1年ではあるが、専門を生かしたインプラントなどの自費診療だけでなく、予防歯科や小児歯科なども積極的に展開し、幅広い患者層に恵まれている。 「様々な先生方に育てて頂いたので、これからは私も若い先生方を育てていければ」と話す中尾院長にお話を伺ってきた。

中尾歯科クリニック 中尾浩之 院長

中尾歯科クリニック 中尾浩之 院長

プロフィール

  • 1967年に大阪市で生まれる。
  • 1996年に朝日大学を卒業後、大阪大学歯学部歯科補綴学第二講座に入局する。
  • 2003年に大阪大学大学院歯学研究科(博士課程)を修了し、博士号を取得する。2003年から大阪市の中尾歯科医院で副院長を務める。
  • 2007年1月に兵庫県西宮市に中尾歯科クリニックを開院する。
  • 2004年に日本歯科理工学会論文賞受賞。

開業に至るまで

まず、歯科医を目指されたきっかけからお話し頂けますか?

中尾歯科クリニック父が歯科医で、大阪市の阿波座で開業していました。ですから本当に自然に目指したという感じですね。私も開業前は父の中尾歯科医院で副院長をしていました。そちらは2006年の9月に閉院して、こちらを2007年1月に新規開業させました。

大学卒業後、大阪大学歯学部第二補綴科に入局されていますが、どういったことを専攻されたのですか?

補綴に興味がありましたので、専攻しました。大学院での研究は歯科理工学という分野です。解剖学や病理学といった学問は医科にも歯科にもありますが、歯科理工学(材料学)というのは歯科にしかない学問なんです。そこでは骨の再生について研究をしていました。最近脚光を浴びているティッシュエンジニアリングですね。研究で得たことは一言では言い尽せませんが、多くの貴重な経験をさせて頂きました。

大阪大学時代には様々な歯科医院にいらしたとか。

医局から行かせて頂いたのですが、10軒ぐらいは行ったのではないでしょうか。技術の習得だけでなく、人間の勉強をさせて頂いた時期だと思っています。たくさんの先生方とお会いでき、様々な治療法、考え方を勉強させて頂きました。

大学院修了後はご実家の中尾歯科医院に帰られたのですね。

もともとは実家を継承しようという気持ちはありましたので、一旦中尾歯科医院に帰りました。特に経営にタッチするわけではなく、治療に専念していました。ただ私は自分自身で別に開業したいと思っていましたので、新たに場所を探しました。

どういった場所を探されたのですか?

最初は阿波座近辺から探し、心斎橋なども見て回りました。次に自宅のある吹田市や箕面市なども探しましたが、自分に合う物件には出会えませんでした。希望としては「駅から徒歩2、3分、1階であること、駐車場があること」でした。そうして足を棒のようにして探しているうちに、この物件に出会えたんです。

こちらの第一印象をお聞かせください。

中尾歯科クリニック直感でここだと思いました(笑)。駅から徒歩1分、マンションの1階で、駐車場は4台分もあり、しかも前がコインパーキングと本当に希望通りの物件でした。実際に開業してみると、徒歩や自転車、電車で来院される患者さんが多く、駐車場に関しては足りないということはありません。以前はコンビニエンスストアが入居していたそうですが、オープン当初は患者さんに「何ができるのかすごく楽しみだった」とよく言われました。

設計や内装では、どういった工夫をなさったのですか?

一から全部自分でやらないと気が済まない性格なので、自分なりにこだわって設計しました。これまで色々なクリニックを見てきたことが参考になっていますね。中でもこだわったのが「動線分離構造」というものです。現在、チェアが5台あり、全て個室となっています。その個室と待合室を結ぶ通路、すなわち患者さん専用の通路とスタッフが行き来する通路を完全に分けているんです。これによりスタッフと患者さんがすれ違ったり、患者さん同士のすれ違いも軽減でき、スムースにストレスなく診療室と待合室の行き来ができます。

個室もゆったりとしていますね。

水平位の診察ですので、口の中は元より足元など、患者さんのプライバシーを守るためにも個室が必要だと思っていました。ただし天井をオープンにして、開放感も感じて頂けるようになっています。内装のカラーはベージュやブラウンが基調となっていて、患者さんにくつろいで頂けるよう、病院らしくない、サロンのような雰囲気作りを心がけました。

クリニックのコンセプト~「温存治療」

「温存治療」を重要視していらっしゃいますね。

中尾歯科クリニックれまでの経験から自然に身についた考え方です。「できるだけ歯を抜かない、神経を取らない」治療のことで、ホームページでも紹介しています。そのためか他院で「抜かないと治らない」と言われたという患者さんがセカンドオピニオンを求めて、私どもに来院されることも多くなってきました。西宮市や宝塚市だけでなく、大阪市の南港のあたりからいらっしゃる患者さんもいます。

こちらでは「抜かなくても治る」治療が可能だということなんでしょうか。

もちろん、抜かないといけない例もありますので、丁寧なインフォームドコンセントを行っています。ただ大半の患者さんが歯を抜く必要がなくなったことで喜んでいらっしゃいます。

セカンドオピニオンとなると、インフォームドコンセントが肝要ですね。

当クリニックではインフォームドコンセントは普通のことですね。説明なしの治療なんてありえませんから。また最近ホームページなどで「無痛治療」を謳うところが非常に増えていますが、当クリニックではこのような患者さんに誤解を招くような誇大表現による過度の安心感を与えることはせず、治療を行うにあたり、痛みを限りなく「ゼロ」に近づけるということをインフォームドコンセントします。そして、そのために麻酔というものの使用を説明しています。

患者さん側には「無痛」のニーズはあるようですが。

患者さんに過度な期待を抱かせる誤った情報は流すべきではないと考えています。技術に自信のない方がそういう風潮を作ってきたのかなと思います。麻酔ひとつ行うにしても、本当の意味で「痛くなく」行う方法はあります。

診療内容

保険診療と自費診療の割合を教えて頂けますか?

中尾歯科クリニック月によって違います。保険が多い月も自費が多い月もあります。

予防歯科はコストがかかりませんか?

保険診療に「予防」という項目がありませんので、確かに真面目にやればやるほどコストはかかりますが、無理のない範囲で行っています。しかし「予防」が一番大事だと思っていますので、これからも積極的に行っていきます。うちは患者さんの年齢層も幅広いですしね。

小児歯科はいかがでしょうか。

人数を数えたことはありませんが、お蔭様で多くのお子様に来院して頂いています。日によっては「小児歯科の日」になってしまうこともあります。ただ患者さんの中には子どもを嫌う方がおられますので、そういう方のために予約が重ならないよう配慮も行っています。本当に動線分離構造や個室にしてよかったなと感じます。

インプラントは月に何例程度、なさっているのですか?

月に数十本程度でしょうか。もっと積極的に行っていきたいと考えています。セラミックの補綴の症例も多いですね。元は「補綴屋」なので、インプラントよりもセラミックの方が実は好きなんですよ。

ホワイトニングも始められたそうですね。

まだ始めたばかりですが、こちらはボチボチといった感じです。個人的に、あの新庄さんのような歯ってどうなのかなと思いますし(笑)。ただ患者さんからの「歯を白くしたい」というニーズは年々高まっていますので、もちろんホワイトニングも積極的に行っていきたいと考えています。

経営について

歯科経営の難しさはどんなところにありますか?

やはり院長と経営者の二足の草鞋を履かなければいけないことでしょうか。いわゆる雇われ院長でしたら、草鞋は一足でいいわけですから。中でも一番大変なのがスタッフの確保と働く環境を整えることですね。特に診療時間は日々不規則ですし、標榜している通りの時間には終わりません。しかし私としてはできるだけ時間通りに終われるように努力しているところです。

歯科衛生士さんは何人いらっしゃいますか?

4人ですが、1人産休を取っているので現在は3人体制となっています。看護師同様、衛生士も全国的に足りない状況ですので、確保だけでも大変ですね。

教育などはどのようにされていますか?

患者さんへの治療については勉強会を開いています。若い衛生士が多いので、全てが勉強ですね。企業であれば新入社員の研修に時間をかけられるのでしょうが、私どものような規模では全て自前でやらなければいけません。患者さんへの対応や電話での受け答えなど、細かいところまで指導しています

コンセプトはどのように共有されているのですか?

「温存治療」に関しては、衛生士の理解も伴わないといけませんが、ある意味言葉にして伝えることが難しいコンセプトでもありますので、私が行っている姿を見て、そこから感じ取って、身につけてもらえたらと願っています。

増患対策について、お聞かせください。

現在、宣伝はあえてしていないです。特別な増患対策も行ってはいません。ホームページは患者さんが場所や電話番号などを検索しやすいようにということで作成しています。携帯電話からでも検索して頂けますしね。最近は患者さんが患者さんを紹介してくださることが多いようで、これは私にとってとても嬉しいことです。その他は口コミが多いようです。自信を持って診療に当たっていると、患者さんがお知り合いやご家族を紹介してくださるのではないでしょうか。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

いい材料や新しい治療法を積極的に取り入れつつ、「進化」させていければと考えています。今も昔もやっていることはさほど変わらないと思っています。単なる流行りすたりのものではなくて、本当の診療を追求していきたいですね。また私自身が様々な先生方に育てて頂いたので、今度は若い先生方を育てていければと思っています。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

中尾歯科クリニック私自身開業してまだたった1年程度ですので、アドバイスといった大それたことを言う身分ではありませんが、ここがいいなと思える場所に出会えるのは縁もあるかとは思いますが、自分がどんな診療をしていきたいのか、よく考え、それに合った場所選びをすることが大切ではないでしょうか。そういった自分のしたい診療からどんな条件が必要なのかをピックアップしていくといいかと思います。

プライベート

車が好きで、9年程前から子どもの頃から憧れだったGTRに乗っています。主に通勤用で、子どもが小さいですし、ドライブにはあまり行かなくなりました。休みの日は家の近くで子どもと野球をするのが楽しみです。最近は「ムシキング」ブームもあり、私が子どもの頃は図鑑でしか見られないようなクワガタも簡単にお店で購入できるんですね。うちでも子どもに頼まれて、クワガタと金魚を飼っています。

【タイムスケジュール】

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