歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

広畑歯科 廣畑顕一 院長

広畑歯科は大阪府堺市に位置する。堺市は市の南北を6本の鉄道が縦断しているが、一番西側を走る南海本線石津川駅から徒歩1分の立地である。石津川はもともと静かな漁村であったが、現在は臨海工業地帯の一角であり、朝晩は駅からバスの停留所まで工場勤務の人たちが列を作るという。
廣畑顕一院長は1981年にこの地に開業した。開業以来もはや四半世紀であるが「周りの人に恵まれて、あっという間の25年だったように思います」と謙虚に振り返る。
開業当初3台だったチェアも9台まで増設し、矯正、補綴、小児と各分野のエキスパートの常勤医を擁する、充実した医療内容を誇る歯科医院である。

開業まで…

廣畑顕一院長は大阪府堺市出身で、1953年の生まれである。高校3年生まで文系の大学を受験して、建築材料の販売会社を経営しておられたお父様の片腕となることを漠然と考えていたという。

「そのうち、やっぱり手に職をつけたいなあと思うようになりました。父の知り合いに歯科を開業していらっしゃる先生が何人かおられて、話を伺ううちに歯学部を受験することを決めました。とは言ってももともと文系志望でしたので、学校の先生や友人からも驚かれましたね。結局、文系の大学と歯科大学を同時に受験したという珍しい受験生になりました。」

岐阜歯科大学(現 朝日大学)を1978年に卒業後、大阪市の小室歯科に勤務する。小室歯科は大阪市内に複数の分院を有する著名な歯科医院グループである。廣畑院長はお父様のご友人の開業医に紹介して頂き、入職の運びとなった。

「同期は4人でした。切磋琢磨というよりは他の3人に様々なことを教えてもらい、刺激を受けながらの勤務医生活でしたね。小室歯科での経験は歯科医としてのベースになっていると思います。小室歯科には小室会があり、事ある毎に集まらせていただいております。本当によく学び、よく遊んだ時代でした。」

当時は卒後3~4年での開業が目安となっていた。現在のように勤務医を長く続けていくという選択肢はなく、大学に残って研究をしていくのか、あるいは一般開業医で3年程度勤務した後、開業するのかの二者択一の時代だった。あるとき廣畑院長のもとに大阪府大阪狭山市の物件の紹介がある。

「私も時代の流れに乗って、卒後4年目で開業することにしていました。その場所は南海高野線の金剛駅前であり、かなり気に入ったのですが、私が開業したいと思うタイミングとその物件が空くタイミングがズレていたんです。それでそれまでの間にどこかで開業しようと思って探したのが、この石津川の地です。結局、石津川で25年が経ってしまい、当初の金剛の話は自然と立ち消えになっていきました(笑)。」

開業当初

広畑歯科南海本線石津川駅は堺駅から南に2駅と市の中心部からさほど離れているわけではない。広畑歯科は駅の裏側のビルに入居し、1981年に診察を開始した。当時はチェアが3台でごく一般的な歯科医院のスタイルであったという。
「石津川の駅前はバスの停留所があり、工場へ通う人で朝晩は大変賑やかです。ところが日中の人の流れはそんなに多くありません。そこで石津川で開業するなら、駅前よりは常時人の流れがある駅の裏側がいいと思っていました。当時、駅裏広場なるものができるという噂があり、視界が開けていいなあと期待していましたが、結局噂に終わりました(笑)。空き地ばかりのところでしたが、南海電鉄がマンションを分譲するなど、だんだん人口が増加していきました。」

現在地に移転

広畑歯科その物件はテナントにしては随分広く、50坪ほどあったが、チェアが7台になった時点で限界を感じてきたという。入居していたビルのほぼ隣の土地を取得し、移転する。1993年のことであった。チェア8台の歯科医院に、15台分の駐車場を有する堂々たる新規開業である。診療スペースも非常にゆったりとした空間であり、全てのチェアサイドに手洗いシンクと殺菌乾燥機を設置し、治療時間の短縮と衛生面の強化を実現している。そしてインフォームドコンセントの徹底のために各チェアにモニターも完備した。
「その後、チェアは1台増設し、現在は9台です。現在は1日に80人から100人の患者さんに来院して頂いています。患者さんが望まれることを丁寧に行ってきたつもりですが、本当に周りに恵まれ、支えて頂いたと思っています。」

予防歯科

広畑歯科が力を入れる分野の一つが予防歯科である。歯科衛生士が常勤で4人と厚みのある体制になっており、増設した9台目のチェアは衛生士が使用することも多い。

「予防歯科を今後どのように展開していくのか未定なところもありますが、現在は4人のうち2人の歯科衛生士にアポイント帳を持たせ、担当の患者さんを持ってもらっています。そのような責任を持たせると、衛生士のやりがいにつながるようですね。月に2回のミーティングや毎日の朝礼のときに、私からは挨拶の徹底や、患者さんとのコミュニケーションの大切さについて話をしています。たしかに衛生士はもともとおとなしい人が多く、患者さんと話をするのが苦手で、仕事をまず終えてしまおうという人もいます。そういう人には雑談でいいから、少しずつ話をしていくように指導しています。」

院内ラボ

広畑歯科以前のテナント時代から広畑歯科は院内ラボを有している。現在は負担増加を敬遠するため、外注する歯科医院も増えているが、廣畑院長はこだわりを持って、院内ラボを充実させている。
「実際のところ、負担はありますよ。でも、このあたりは高齢者が多く、デンチャーが割れるなどの事態に即対応するためには院内ラボが不可欠と考えています。どのぐらいの人数で運営していくのかという迷いはありますが、かと言ってゼロにしようとは思いません。今後、高齢社会がますます進展していくわけですから、需要されることも大きくなるでしょうね。」

新しい治療

広畑歯科では無痛治療に加え、3Mix―MPによる治療を行うなど、新しい技術を積極的に取り入れている。これは抗菌剤の浸透によって歯髄を含む歯全体を無菌化するというものだ。

「無痛治療は以前は笑気麻酔を行っていたのですが、時間がかかることから、あまり患者さんから望まれなかったですね。そこで表面麻酔にして細い針を使い、時間の短縮を図ったところ、ご好評を頂いているようです。3Mix―MPは、本を読んだり、学会に出席するなどして勉強しました。抗菌剤を詰めることで虫歯をある程度まで置いておくことができ、病巣を全部とってしまう手前の段階で抑えることができる点が利点です。抗菌剤は毎日作る必要があるので、その点は大変です。」

自由診療

廣畑院長が初めてインプラントに取り組んだのは20年以上も前のことであるという。その頃はまだ安全性の面で若干の不安があった。そして現在のスタイルが定着してきたときに再挑戦を行うことにした。

「20年ぐらい前に行ったときは思わしい結果があまり出ず、これ以上する必要はないなと思って止めたんです。ところが7年ほど前に今の時代のインプラントに出会い、また勉強を始めました。再挑戦にあたっては、学会や研修会だけでなく、多くの開業医のもとに足を運んで勉強させてもらいました。他の開業医の頑張りが大変刺激になりました。現在は月に3例ぐらいですね。経営上プラスにならないわけではありませんが、このあたりは昔の漁師町であり、そういった地域特性を考えるとどんどん売るという方針も立てづらいです。」

また矯正を得意とする常勤医がいることから、小児歯科でMTM(部分矯正)を行っている。これは補綴をする際に、事前に歯並びを修正するときなどに行う治療である。

「3ヶ月から6ヶ月の治療期間を終えたのちに補綴をしますので、矯正治療で必要な保定の期間がありません。使用できる症例に限りはありますが、費用も安いために患者さんからは支持を頂いているようです。」

雇用について

広畑歯科広畑歯科には常勤医師は4人いるが、非常勤医師は1人もいない。この規模で非常勤医師がいない歯科医院は極めて稀であろう。
「私ども歯科医師は職人だと思っています。夕方からの診療を非常勤医師に任せて、帰ってしまったら、進歩しなくなるような気がするんですよ。夜に模型チェックをして、できなかったことを復習したり、頭を打ちながら成長したいですからね。」

臨床研修指定病院へ…

歯科も臨床研修が必修化され、指定病院となって研修医の教育機関としての存在価値を高めている歯科医院が増えている。広畑歯科も2008年に卒業する研修医を受け入れるべく、申請を行ったところである。

「若い研修医と様々な話をしながら仕事をしていくのは大きな刺激になると思い、このほど申請しました。院内ラボもありますから、歯科医師と技工士が一緒になってミーティングする楽しさを味わって頂きたいですね。私どもにはチェアごとにモニターがあります。私が歯科医師になった30年ぐらい前にはインフォームドコンセントの重要性は認識されていませんでした。ただ小室歯科は自費の患者さんが多かったので、説明能力は向上したかと思っています。患者さんを待たせないことときちんとした説明をすることの両立は難しいのですが、若い先生たちにもモニターを使って、患者さんが納得してくださる話ができるようになってほしいですね。」

今後の展望

広畑歯科広畑歯科の隣地にあったオフィスビルを購入した。
「そのビルの使用目的はまだ考えていないですね。ただ今後は予防に力を入れていきたいです。特有の臭いや金属音のしない、歯医者らしからぬ専用のスペースを作りたいですね。現在はそのための人員の配置に頭を悩ませています。歯科医院全体としてはバランスのとれた内容を提供できればと思っています。」

メッセージ 開業に備えて勤務医をしている若い歯科医師へメッセージをお願いした。

「勤務医の中には様々な医院を見たいという理由で早期に転職を繰り返す人と一つの医院にどっぷりと長く勤務する人とに分かれているように思います。私は後者の方が良いと考えます。なぜなら、例えば被せた後ですぐに退職してしまえば、被せたという成功例の記憶しか残りません。被せたものが取れるという失敗例が出現したときにはもうその医院にいないのですから。成功例しか見ないというのは成長しないと思います。結果を見て、現実を知ることが成長につながるのですから、一つの医院に長く勤務しながら、そういう経験を重ねた後に開業された方がよいのではないでしょうか。」