歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

加納歯科医院 加納誠司 副院長

今月は高校ラガーマンの憧れである花園ラグビー場の近くに位置する加納歯科医院に加納誠司副院長をお訪ねした。加納先生は大阪府八尾市出身で、現在39歳である。先生が生まれた1966年はお父様の加納昌也先生が八尾市山本町に加納歯科医院を開業した年であった。お父様はビルの2階、6坪の場所で開業したが、大阪歯科大学を卒業してわずか半年後のことであったという。

加納誠司 副院長 加納歯科医院

加納先生は当時のことを振り返る。

加納歯科医院「開業資金も潤沢でなく、最初はスタッフの方への給料が満足に払えなくて、母が給料がわりにとスタッフの方へ朝食や夕食を出していたのを覚えています。しかし、自分が親にしてもらってきた生活を考えると、将来子どもができたときに同じようなことをしてやりたいのであれば、父と同じ歯科医になるのが早いのかなと考え、自然に歯学部受験を決めました。」

朝日大学歯学部へ進学し、1992年に卒業する。卒業後は加納歯科医院に入職する。

「2代目でも親の医院を継承する前に、まずは他院で研修するということは多いのですが、うちは多少変わっていまして(笑)、父からは『よそで修行したらヘンな癖がつくから止めろ』と言われたんですよ。それだけ自分の腕に自信があったということなんでしょうね。」

加納先生が大学在学中に、加納歯科医院は隣地に移転開業し、東大阪市稲葉にも分院を開業していた。本院は近鉄大阪線河内山本駅、分院は近鉄奈良線河内花園駅のそれぞれ駅前という好立地である。

本院は設計にあたり、チェアに横たわる患者さんの姿は外から見えないようにする一方、立ち働く医師やスタッフの姿はよく見えるような窓を大きく配した。

「のんびり歩いたり、角になったところを大回りしていると父が後ろから蹴り上げるんです。機敏に動かないと賢そうに見えないとよく言われました。」

お父様の指導法は非常にユニークなものであった。本やテキストに書いてあることはそれなりの理解力を持ち合わせていれば理解し、技術も習得していけるが、「人の心をつかむ」ために必要なことは本には書いていないけれども一番重要なことであるというものだ。そして患者さんがチェアに座ってから5分間の会話で、患者さんが何を考えて、この場に座っているのか、その背景を考えなくてはいけないということも強く教えられたという。実はお父様のこのような考えは加納先生のお祖父様からの教えでもあったのだ。加納先生のお父様のお父様にあたる故加納修一さんは東燃に勤務後、キグナス石油の会長を長く務めた企業人であった。

「昔は大らかな時代だったのでしょう。祖父は商談に父やほかの子どもたちをよく同席させたそうです。そして商談が終わったあと、父たちに『今の相手が何を考えていたのか考えてみろ』と問いかけていたと父から聞きました。祖父は学歴を掴んだあとは発想力を持たなくてはいけないと言っていました。私は祖父や父からその発想力を学ぶことができましたが、今の若いドクターにはその部分が足りないのかなあと思いますね。」

スタッフ教育

加納歯科医院はスタッフの定着率が高い。昨年、奈良市大宮町(近鉄奈良線新大宮駅前)に分院を開業したが、そちらの受付である西山さんは1966年の本院開業のときからの勤務歴である。そして本院の歯科衛生士でリーダー役を務める玉村恵子さんは加納先生の従妹であるが、現在50歳で、ご両親からの信頼も篤い。

「西山は70歳を越えていますし、歯科衛生士、助手、受付スタッフは3院で約20名おりますが、平均年齢は50歳代ですね。西山や玉村のスタッフ教育は徹底していますよ。『権利がほしければ義務と責任を果たせ』ということでしょうか。できないことは叱りますし、良い仕事ができれば、その場で褒めています。」

インプラント治療

加納歯科医院加納歯科医院での特筆すべき治療は25年以上前から行っているというやはりインプラントであろう。加納先生はずっとお父様からの指導のもとで研鑽を積んできたが、熊本市でインプラントセンター九州を開業する中村社綱先生に教えを受けたこともある。

「父の仕事は感性を重視していますし、中村先生は系統立てた考え方を大切にされています。その両方の良さを学べたのは有難い経験ですね。毎週金曜日の最終便で熊本に飛び、土曜日に診療を見学させて頂いて、日曜日は講習を受けました。これを2年間続けました。中村先生のところでは普通では経験できないような難症例も見せて頂き、大変勉強になりました。」

加納先生は現在、デジタルコンセプト21という勉強会に所属し、ITIをメインとした研究を行っている。

新大宮歯科

加納歯科医院先述の新大宮歯科は加納歯科医院の2軒目の分院である。加納先生が入職して初めての新規開業であったが、こちらは以前に開業していた先生の急病により、急遽居抜きで購入した物件であった。そのため以前の医院の閉院からわずか1ヶ月という期間での開業となり、カルテもそのまま継承できたという。最寄り駅である新大宮駅に看板を出しただけで特別に増患対策を行ったわけではないが、ほぼ3ヶ月で投資金額が回収できたという。現在、チェアが3台で1日平均の外来患者数は30人だが、自費診療に力を入れているゆえの結果であろう。オペに関しては、本院へ来院してもらったり、難しい補綴物のセットなどはお父様や加納先生が駆けつけ、治療を行っている。

「自費になりますと、医師が患者さんに話をするときに顔色が変わることがあるかもしれません。金額が高いほど第三者から話をさせることが大切です。私どもでは、西山がそういった話をうまくしてくれています。そして新しいスタッフにも最初は西山のそばにつかせて、どういう話をしているのか、内容や金額についての説明を行うタイミングなどを研修させています。」

新大宮駅は近年、快速急行も停まるようになり、官公庁街や飲食店街が広がるなど集患はある程度見込めそうであったが、開業に踏み切る前にはそれ以外に見越していたことがあった。

「これからは若い歯科医師が皆、開業できる時代ではなくなります。一生を勤務医のまま過ごす医師も出てくるでしょう。そういった医師の働き場所を作りたかったわけです。ただ、今のところ勤務医をする年齢は30歳から35歳ぐらいであり、そのぐらいのキャリアだと、そろそろ自信もついてきて若干暴走してしまう場合もあります。そういったリスク管理をしたり、適切なアドバイスは私や父が行っています。結果として、私どもへ永久就職をして頂ければ幸せですね。」

今後の展望

現在、加納歯科医院の1日平均外来患者数は本院が100人、東大阪市の分院が40人、奈良市の分院が30人であるが、このうち6割弱が自費診療だという。オペ室は本院にしかないが、週3回から5回と高い稼動率となっている。加納先生は「特別のことをしているわけではないし、宣伝もしていない。」と謙遜して語るが、やはり「気迫を持ってやれ」というお祖父様、お父様からの教えの賜物であろう。

最後に、加納先生に今後の展望をお聞きした。

「これから、この業界はますます厳しくなるでしょう。しかし、世の中のニーズに100%合わせていく御用聞きのような歯医者にはなりたくありません。最近、歯科医師なのかマッサージ師なのか分からないようなところもありますが、私はそれなりに勉強してきたことにプライドもありますし、患者さんを労わりながらもへりくだることは避けたいと思っています。誰が見てもおかしくない治療をすれば、患者さんは来院してくださいます。人を惹きつけることができて、何か困ったときには人が助けてくださるような、そういう人間でありたいですね。」