歯科経営者に聴く - 医療法人社団 藤弘会 駒込駅前デンタルクリニック 松永泰典 院長(前編)

歯科経営者に聴く(前編)

~第一線で活躍する理事長から学ぶ~

医療法人社団 藤弘会 駒込駅前デンタルクリニック エントランス

 ソメイヨシノの発祥の地である東京都豊島区駒込は落ち着いた住宅街となっているが、山手線や東京メトロ南北線の駒込駅があり、利便性は高い。
 駒込駅前デンタルクリニックはその駒込駅の駅前に2019年に開業した歯科医院である。徹底した衛生管理のもと、インプラントや矯正治療にも力を入れている。

 今月と来月の2回にわたり、駒込駅前デンタルクリニックの松永泰典院長にお話を伺った。

松永 泰典 院長

医療法人社団 藤弘会 駒込駅前デンタルクリニック 松永 泰典 院長

【プロフィール】

  • 1974年茨城県 生まれ
  • 2000年昭和大学 卒業
  • 2001年歯科医師国家試験 合格
  • 2001年リオ歯科クリニカ 勤務
  • 2002年星野歯科クリニック 勤務
  • 2003年松代歯科医院 勤務
  • 2004年きらら山の手歯科 勤務
  • 2006年日暮里駅前デンタルクリニック 開業
  • 2011年医療法人社団藤弘会 登記 理事長就任
  • 2012年医療法人社団藤弘会 西日暮里駅前デンタルクリニック 開業
  • 2019年駒込駅前デンタルクリニック 開業

【所属】

  • ICOI(国際口腔インプラント学会)役員・指導医
  • iACD 指導医
  • ニューヨーク大学 インプラント科研修プログラムリーダー
  • 日本歯科先端技術研究所(フェロー)
  • 日本歯科保存学会
  • 日本歯科審美学会
  • CID club
  • ICOI(国際インプラント学会)認定医・指導医・アジア・パシフィックセクション役員
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開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけについて教えてください。

私は小学校に入学する前に、父の転勤で福岡県大牟田市に移り、中学校まで大牟田で過ごしました。高校は福岡市内の福岡大学附属大濠高校に入学したのですが、高校の途中で文系、理系などの進路選択をするにあたって、何か資格を取りたい、手に職をつけたいと思っていました。祖父が弁護士だったので、弁護士にも憧れたのですが、とんでもなく難しいと知りました(笑)。そこで、どの学部に行けばどの資格が取れるのかを調べ、医療系を志望しました。両親や親族に歯科医師はおらず、年の近い従兄が医師になったぐらいです。私は子どもの頃に矯正治療を受けたのですが、とても良くしてもらった覚えがあります。その記憶もあり、色々な方の健康により広く寄与できる歯科医師を目指しました。

勤務先の歯科医院を選ばれたのはどうしてですか。

私たちの頃はまだ臨床研修制度がなく、大学に残ってもいいし、開業医さんに行ってもいいという時代でした。私はもともと「専門家」になりたかったので、歯学部に入った頃は矯正か口腔外科に行きたいと思っていました。矯正は小さい頃の思い出もありましたし、当時はインプラントが流行り始めていたので、口腔外科も良かったのです。しかし歯学部で6年勉強するうちに、色々な方の色々なニーズに応える仕事をしたいと考えるようになり、入れ歯を入れたり、歯を削って詰めたりといった診療をメインに行う一般歯科に惹かれました。口の中の治療は歯周病は歯周病、根っこの治療は根っこの治療という縦割りで行えるものではありません。先輩や指導してくださっていた先生に「一人の患者さんの様々な悩みに対して、オールマイティに対応したい」と相談したところ、「色々な分野をされている歯科医院があるよ」と群馬県の歯科医院を紹介していただき、お世話になることにしました。

勤務先で学ばれたのはどういったことですか。

患者さんが非常に多い歯科医院でしたので、色々なことに困っている患者さんがいらして、ニーズも多様でした。当時は卒業後すぐは口の中をなかなか触らせてもらえなかったのですが、そちらでは1年目から即戦力として扱っていただきました。院長先生は治療にはあまり携わっていらっしゃらなかったので、1日100人以上の患者さんを歯科医師3人で診て、半分以上を私が診ていました。何かの痛みを持って来院される患者さんが多かったので、痛みがあれば、それを取るという治療をしていました。この経験が今の考え方の基本になっていますね。それぞれに専門の先生がいらっしゃったこともあり、1年目や2年目のときから比較的レベルの高い治療を経験させていただきました。

想像と違ったことはありましたか。

治療では「手の込んだ方法ではここまで」、「一番簡単なのであればこれだけ」というのが両極端ですが、少しずつ学ぶことで技術が向上し、全てをできるようになったとしても、最終的には患者さんとのコミュニケーションが必要なのだということが大きなギャップでした。私は技術さえあれば、ある程度のことができると思っていましたが、そうではありません。患者さんに納得していただくこと、患者さんの過去があって、現在があって、将来はこうならないようにという予防的なことも含めて、患者さんとのコミュニケーションは必要です。将来起こりうる不具合を予想できていても、それに関する治療ができないとジレンマに陥ります。コミュニケーションが取れて、お話ができるようになってくると、途中からでも「じゃあ、そっちの治療をしてみようかな」となったりもします。一般的な社会人として、クライアントである患者さんと向き合って会話する大切さを感じました。

歯学生が臨床研修先を選ぶときのアドバイスをお願いできますか。

私の経験ですが、一つの分野に絞り込んでしまうと、一つのことに関しては伸びるのですが、その受け皿になるほかの分野が疎かになることもあります。大学時代に志望していたことが実際の臨床の場に出ると変わることもありますし、できれば色々なことを経験してほしいですね。歯科医師として何十年も働いていくわけですから、色々な分野の治療をして、様々な知識を身につけましょう。専門性を高めることも大事ですが、総合歯科という概念を取り入れるといいですね。例えば歯周病では「お口の中の汚れが」とよく言われますが、歯周病の原因としては噛み合わせであることも多いです。そうすると噛み合わせについての知識がないと歯周病を治せません。行き詰まったときこそ、2つ3つと考え方を持っておくと、これとこれが複合的に絡んでいるのだという判断もできるので、治療がよりスムーズに進みますし、患者さんも辛い思いをしなくて済みます。

開業しようと決断された経緯について、お聞かせください。

私は物事のゴールから考えていく習慣を持つようにしていて、開業に関しても卒業後3年目で開業したいという目標を立てていました。しかし、私は勤務先に恵まれ、大勢の専門家の方々のもとで勉強させていただく機会が豊富にあったので、3年では足りない部分が見えてきました。当時の難しい治療ですと、やはりインプラントですね。これをしっかりものにして、患者さんに提供できるようにというところまで成長するのに5年かかり、最終的には卒業後5年で開業しました。

インプラントをどのように勉強なさったのですか。

海外の勉強会などに行きました。今から13年ほど前にラスベガスの先生のところに行き、10年前にニューヨーク大学の短期留学コースに行きました。これは日本人向けの短期留学プログラムで、私は日本人リーダーの一人でした。ニューヨーク大学のコースには何度か行きました。世界で一番大きなインプラント学会が国際口腔インプラント学会であるICOIなのですが、そこの勉強会にも行き、今は日本支部の役員として、指導医もさせていただいています。それから年に1回はグアテマラにある中南米で一番大きな歯学部を持つフランシスコ・マロキン大学の実習コースにも携わり、実際の患者さんにインプラント治療を行ってきました。

海外で学ぶことが大事なのですか。

今の日本のインプラント治療は海外との差はそこまでありません。ただ、日本という国は性質上、最先端なものは入ってきにくいです。海外では最先端だったり、少し行き過ぎた危ない治療が出てきます。突拍子もないという言い方は失礼ですが、「こんなに新しい考え方があるのだな」、「こんなにすごいことを思いつく人がいるのだな」というものは海外で生まれやすいですね。それが何年か経って、精度が上がった状態で日本に入ってきます。海外にまず行って、良い治療をするための技術やヒントをもらったり、ほかの国の歯科医師がどういう治療をしているのかを見るのはとても重要なことだと思います。

開業地をどのように選ばれたのですか。

卒業後3年目ぐらいから、自分が学んできたことをどういうふうに患者さんに提供していきたいのかを開業地を含めて考え始めていたところ、分院長を務めていた日暮里駅前デンタルクリニックを居抜きで買う話が出てきたのです。綿密に進めていたというよりも、突然チャンスが来て、診ていた患者さんをそのまま診ることができる開業だったので、こちらに決めました。

分院展開は当初から考えていましたか。

学生時代や勤務医を始めた頃はできれば分院があった方が様々な歯科医師が集まるし、多くの情報のもとで皆で勉強して、精度を上げていきたいと思っていました。その頃は10院が目標だったのですが、今はその目標はないですね(笑)。腰を据えて、しっかり治療すること、歯科医院内部のことを把握し、管理し、患者さんに適切に提供することを考えると、3院ぐらいの規模が私の力ではマックスですし、今の形態が合っています。私は歯科医院の精度を上げていくことにこだわっていますので、駒込駅前デンタルクリニックの近くには技工所も作りました。新しい治療での技工物は基本的には私が管理している技工所で作れるようにしています。

歯科技工所の設立も構想されていたのですか。

歯科医師、歯科衛生士、歯科助手のみならず、歯科技工士も集まって、一つのファミリーとして仕事をしていく中で、スタッフが満足し、安心して働ける環境を作りたいと思っていましたので、最初からプランの中にありました。

本院の設計のこだわりをお聞かせください。

自分のこだわりよりも、買い取ったときに学ばせていただいたことが多いです。以前、勤務していた歯科医院の中に、スタッフや患者さんの動線が分かりやすく、院内の真ん中にいると、歯科医師と患者さんの会話が全て聞こえていたところがありました。その真ん中に洗い物をする場所や器具を置く場所があり、放射状にユニットがあります。開業するときにはこういうレイアウトにしたいと思っていたところ、私が買い取った歯科医院はこれに近い形だったのです。これを2院目、3院目の西日暮里駅前デンタルクリニック、駒込駅前デンタルクリニックでも意識し、全体のことを把握できることをベースにレイアウトを決めました。

開業にあたり、苦労した点などがあれば、お聞かせください。

本院は20年以上前からある建物で、壁の張り替えぐらいはしているのですが、内装はほとんどいじっていません。設計された先生はよく考えていらっしゃったのだなと勉強になったことばかりです。したがって、デザインで苦労したことはないですし、不便を感じたこともありません。強いて言えば、私が本院を買い取ったあとで患者さんの数が増え、少し手狭に感じたことが不便でしょうか(笑)。

理念・治療スタイル

診療方針を教えてください。

スペシャリストのレベルでオールラウンドに診るころです。患者さんのお困りごとは多様ですし、見えないところを見ることで言えば、今は医療機器の発達が進んでいますので、日暮里駅前デンタルクリニックでは歯科用のCTが出た頃に購入しましたし、マイクロスコープの導入も早かったです。CAD/CAMを使った院内で技工物を作ったりもしています。医療機器に関しては「将来は使わなくなるだろうな」というもの以外は、誰でも必要だと言うもの、これがあれば便利なものについては用意しています。日暮里駅前デンタルクリニックにも駒込駅前デンタルクリニックにもCTがあり、マイクロスコープは3院で10台あり、より精度の高い治療を心がけています。
「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、例えば被せ物や詰め物が奥歯だけに集中していたら、虫歯になっているサインです。しかし虫歯菌は奥歯であれ、前歯であれ、同じ口の中であれば唾液という液体に浸かっているのです。奥歯と前歯に同じような菌が同じ量あると考えると、奥歯だけに治療痕が集中しているのはばい菌が原因ではありません。それは噛み合わせが悪いサインなのだと捉え、それを掘り下げます。この患者さんはなぜここまで悪くなったのか、これからどのような悪くなり方をするのかを予想して、この治療が次の治療を防ぐ予防になるような治療を行っています。

気になる後編はこちら