歯科経営者に聴く - 医療法人社団 スマイルベア 坂部 潤 理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する理事長から学ぶ~

医療法人社団 スマイルベア 坂部 潤 理事長

医療法人社団 スマイルベア 外観

東京都港区麻布十番は江戸時代から続く麻布十番商店街で知られているエリアである。長く鉄道路線がなかったが、2000年に麻布十番駅が開業し、東京都営地下鉄大江戸線と東京メトロ南北線が開通したことで、アクセスが大きく改善された。六本木ヒルズへも徒歩圏であり、平日でも買い物客や観光客で賑わっている街である。
キッズデンタル麻布は小児歯科、小児矯正歯科の専門歯科医院として、2008年に開業し、2014年に麻布十番2丁目に移転を行った歯科医院である。特に小児の予防歯科に力を入れ、歯科治療トレーニングなども行っている。今月はキッズデンタル麻布の坂部潤院長にお話を伺った。

医療法人社団 スマイルベア 坂部潤 理事長

医療法人社団 スマイルベア 坂部 潤 理事長

プロフィール

坂部 潤 理事長
1974年 東京都 生まれ
1999年 日本大学歯学部 卒業
2003年 日本大学大学院歯学研究科 修了
2003年 日本大学歯学部付属歯科病院小児歯科 勤務
2004年 キッズデンタル目黒 開設
2006年 キッズデンタル成城 開設
2008年 キッズデンタル麻布 開設
2014年 キッズデンタル麻布 移転

  • 【学会 他】
  • 歯学博士 ( 小児歯科学 )
  • キッズデンタル代表
  • 医療法人スマイルベア理事
  • 日本大学歯学部兼任講師 ( 小児歯科学 )
  • 日本小児歯科学会認定小児歯科専門医
  • 日本歯科矯正学会会員
  • 元UCLA小児矯正歯科客員研究員
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開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

私は0歳のときに心臓の手術を受けるなど、身体が弱かったこともあり、医療が身近な存在でした。ただ、周囲に歯科医師はおらず、父は研究者をしていました。私が中学生の頃は歯科医師のゴールデンタイムでしたから、そのような歯科医師の姿を見た父が勧めてきたところはありますね(笑)。私自身も手先が器用でしたし、ものづくりが好きだったこともあって、日本大学系列の高校に進学し、歯学部を目指すことにしたのです。高校時代は内部試験に合格するために、真面目に勉強していました。

学生時代に思い出に残っていることはありますか。

ものづくりは好きでしたが、勉学はそこまで熱心ではなかったです(笑)。しかし、友達に恵まれ、大学を首席で卒業することができました。日大はサイエンティフィックというよりも体育会系で、「俺についてこい」のような職人的な雰囲気がありました。当時は予防歯科よりも病気になったあとの治療をどうするかということに重点が置かれていましたので、私はかえって予防歯科に魅力を感じていきました。これが小児歯科を目指した原点かもしれません。子どもの頃からの予防管理が大切だと思うようになったのです。

卒業後、すぐに大学院に進学なさったのですね。

小児歯科を学びたかったからです。子どもが好きというよりも学問的な知識をしっかり身につけておきたいと考えました。

UCLAに留学されたのはなぜですか。

子どもの矯正歯科はヨーロッパが本場でしたが、私は伝手を頼って、アメリカで留学先を探し、UCLAに決めたのです。大学院の3年次に1年間、留学しました。留学中に多くの歯科医院に見学に行き、歯科医院全体のシステムを学びました。子どもが楽しく、継続的に通えるようにするために、子どもの心理面にどう働きかけるのかなどを見るのは本当に勉強になりましたね。

勤務先で学ばれたのはどういったことですか。

最初はあくまでも診療技術や知識がメインです。医療人としての生き方や患者さんとの接し方はあとから学んだことですね。大学病院でしたから、後輩への指導や教育も仕事でした。これは開業後の人材育成にも役に立っています。

開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。

留学したときに海外で見てきたスタイルを是非、日本でもやってみたいと思ったことです。

開業地はどのようにして探されたのですか。

最初に開業した目黒は妻の実家との併用住宅で、妻が開業したのです。当時の私はまだ大学病院に勤務していました。私が大学病院を退職後に開業したのが成城と麻布の歯科医院です。小児歯科の予防管理や矯正はデンタルIQが高い場所でないといけません。目黒はたまたま、そのニーズに一致したのですが、私の開業にあたっては成城のほか、田園調布や文京区なども候補に入れていました。成城にしたのはいい物件が出たからです。もとは英会話教室があったのですが、その教室が成城コルティの開設に伴い、そちらに入居することになったので、その跡地に開業したのです。 麻布は東麻布に医院併用住宅を購入したのがきっかけです。ただ、手狭になったので、2014年に麻布十番商店街の近くに移転を行いました。

開業にあたってはどんな苦労がありましたか。

小児歯科はマニアックな医療ですから、人通りは関係ないと思っていましたが、東麻布という場所が悪すぎたのか、最初はなかなか集患できませんでした。目黒や成城は内覧会のときに1日目の予約が入っていたので、戸惑いましたね。しかし、都心部は意外と子どもさんが多いですし、夕方に学校帰りの子どもさんがいらっしゃるようになりました。そして、午前中や午後の早い時間に低年齢の子どもさんが来院されるようになってきたので、少しずつ良くなりました。

開業にあたってのコンセプトなどをお聞かせください。

メインの目的は定期健診を含めた、長期間の管理です。このために何が必要なのかを考えました。病院や医院、歯科医院らしくなく、友達の家のような雰囲気作りを心がけましたね。天井のテレビモニターやヘッドホン、歯科医師をはじめ、スタッフがカラフルなスクラブを着ているのもそういうコンセプトからです。これらはアメリカで学んだことでもあります。また、歯科治療を頑張った子どもさんに、親御さんがご褒美を買われることがあります。それも歯科医院内で差し上げることにして、全てを完結させようと思いました。

移転先の第一印象はいかがでしたか。

麻布十番商店街のメインストリートからは少し外れていますが、網代公園に近く、明るい雰囲気の場所だという印象でした。麻布十番駅からも程よい近さですしね。何よりも駐輪場があったことが大きかったです。こちらはレンタルビデオ店のあった場所で、広さも30坪ありました。ここに歯科医師3人、チェア5台体制で再スタートしたのです。

移転時の設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

私が実践しようとしている小児歯科のあり方をご理解くださる設計士さんを探すのは大変ですし、私が設計を好きなこともあり、自分で考えています。プロに依頼するよりも早くできますしね(笑)。部屋やチェアの配置、壁紙の色なども全てこだわっています。チェアが5台というのも何台がベストなのかを考慮した結果です。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

適正な小児専門歯科医療をお子さんに提供することで、保護者の方々に安心感をお渡しし、その対価をいただくことです。儲け主義の経営は論外ですね。安心感を与えることが最大の判断基準であり、設備や接遇もその理念のもとでどうあるべきかを決めています。

診療方針

診療方針をお聞かせください。

将来、子どもさんがどこで活躍しても恥ずかしくない口元や歯並び、噛み合わせを提供することです。口腔への知識のある子どもさんを育てていきたいと思っています。「虫歯になってから来院するのももちろんいいけれど、問題がなくても来てね」というスタンスですね。小児歯科は保護者の方々が「歯科医院に連れていかなくては」とニーズを感じたときでは遅いのです。「歯に穴が開いていますね。どの材料で埋めますか」ではなく、保護者の方々がニーズを認識していなくても、私どもがプロとして、保護者の方々に分かりやすい話をして、適正な時期に介入していくなど、最善策を取ることを目指しています。

患者さんの層はいかがですか。

2、3歳から5、6歳のお子さんがほとんどです。痛くなったり、健診で虫歯が見つかったりして来院するお子さんは3歳から12歳までですね。小さい頃からいらしているお子さんは中学生になっても診るケースもありますが、大人は一切、診ていません。

自費と保険の割合について、お聞かせください。

5対5です。日々の患者さんを診ているエネルギーは保険が7、8割の割合を占めますが、自費診療は必然的に決まりますから、私としては適切な割合だと思っています。

増患対策

どのような増患対策を行っていらっしゃいますか。

ホームページのみです。看板も媒体への広告も出していません。来院動機はご紹介や口コミがほとんどだからか、患者さんの質が高く、キャンセルもほぼありません。テレビや雑誌の取材を受けることもありますが、集患には繋がらないですね(笑)。

スタッフ教育

スタッフ教育について、お聞かせください。

私は長く大学病院に勤務していましたので、スタンダードな教育を行っています。私どものコンセプトにのっとり、マネキンなども使って、通常に想定される治療を学んでもらっています。一方で、最も大事なコミュニケーションにあたっては、暴れる子どもさんはともかく、そんなに難しいことではありません。介助につかせて、教育します。意識やデンタルIQの高い方々にふさわしい話の仕方を身につける必要がありますね。
私どもは担当医制ではないので、統一したサービスが目標です。シニアクラスの歯科医師が教育にあたりますので、教育コストはかかりますが、最近は育てる文化ができてきたのか、私どもを卒業した歯科医師のうち、3人ほどが既に開業しています。それぞれが成功していますよ。ただ、小児歯科を目指したい学生が歯学部の中に少ないのが難点ですね。大学病院は専門医を取得できるのがメリットですが、地域でオンリーワンの存在である私どもで研修するのもメリットであるはずです。患者さんや保護者の方々に伝わるような話し方、成功率の高い伝え方をはじめ、細かいところでは売り込みではなく、歯並びの話にどうもっていくかなども教育しています。

歯科衛生士、歯科助手への教育はいかがですか。

OJTが中心です。歯科医師が万全の体制で仕事ができるようなサポートを行えるようになるのがコンセプトです。保護者の方々に寄り添える配慮をしてほしいですね。歯科衛生士や歯科助手の振る舞い方や話し方がモンスターペイシェンツ対策にも繋がると思っています。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

人が全てです。きちんと働いている人を育てていきたいです。展開に関しては1軒の歯科医院を大きくするよりも、分院の数を増やす方が合理的です。都内でも子どもさんが増えている場所がありますので、そういったところで分院を出すことも検討中です。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

自分に何ができるかではなく、患者さんの身になって考えることです。一般的なサービス業を選ぶ場合は自宅の近くだったり、安い場所になりがちですが、小児歯科は違います。小児歯科には必要な方が来られるのです。歯科医院としての特徴が際立つものですから、その特徴を伝えきれないと大成しません。歯科医院がしようとしていることの価値を伝えきれるプレゼンテーション技術が必要だと思います。

プライベート

プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

自動車が好きで、昔のスポーツカーを含めて、5台所有しています。心が疲れたときは車磨きをしますね(笑)。整備も好きです。
私どもはチームで運営していますので、有給休暇が取りやすいのです。私もワーク・ライフ・バランスを重視しており、育児の時間も大切にしています。今年の夏休みはフランスとスイスに家族で旅行する予定です。

【タイムスケジュール】

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