歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

福原歯科医院 福原篤司 院長

今月ご紹介する福原歯科医院の位置する大阪市西成区は下町の雰囲気を色濃く残す一帯である。
福原院長は43歳、開業して7年目である。
この地は出身地であり、お父様が歯科医院の隣で福原医院を経営されている。福原院長は松本歯科大学を卒業後、第一口腔外科に所属され、その後日本歯科大学大学院第一口腔外科で勉学を続けられた。当初は開業することは全く考えていなかったそうである。海上自衛隊の横須賀連隊で医務技官をしており、その仕事にやり甲斐を見出していたという。ところが、お父様から帰郷を勧められ開業に踏み切った。

福原歯科医院 福原篤司 院長

福原歯科医院 福原篤司 院長

福原歯科医院「開業する頃、クルマが欲しいなぁなど漠然と思っていましたが、そういったお金を全て医療機器、設備投資に注ぎました。特にレーザーを導入したのは大きかったですね。」

レーザー治療については昭和歯科大学の松本光吉教授に教えを受けた。開業と同時にCO2レーザーとヤグレーザーを備えた。現在は無痛治療、ホワイトニングなどに威力を発揮している。レーザー治療を始めとして、先進医療に対しての勉強を欠かさない福原院長の姿勢は感動的である。インプラントに関しては遠くは和歌山県串本市、また横浜からも患者さんが来るという。

「インプラントの講習を1日しか受けていない状態で患者さんを診る歯医者がいるなど、今の歯医者は勉強しなさすぎです。大学を出て、すぐ開業医に勤めると新しい医療を学ぶ場はないですよ。開業医の知識が30年や40年前に大学を卒業したままで終わっているとしたら、そこに勤務しても新しい医療や新しい材料のことなど何も学べません。唯一の知識交換の場がデンタルショーだけというのは寂しいですね。」

福原院長は基礎を知れば知るほど恐さが出てきたと率直に語る。ところが、基礎を知らないまま恐さ知らずで治療して「結果オーライ」となっていることが多いのが実情であるという。抜歯の際「抜いた」ことと「たまたま抜けた」ことは明らかに異なるのだ。

「本来は、立位で構える姿勢を取り、へーベルをかけ、歯の先と話をすることで<抜く>わけです。基本をおろそかにしてはいけません。患者さんも見ているのです。」

福原院長が「恐さ」を象徴しているとするエピソードがある。松本歯科大学で心肺蘇生法を教わっているつもりだった。ところが臨床の現場で患者さんがアナフィケラシーショックを起こした。そのときに何もできなかったという。そこで、その恐さからもっと勉強して、もっと頑張るべきだという初心が生まれたそうだ。福原院長は初心を忘れないようにするため、今も松本歯科大学の白衣を身につけ、大学の校章が入っているバックルがついたベルトをしている。ベルトは消耗するので、何本も換えたが、バックルはずっと同じものである。

心肺蘇生法は「この歯科医院で患者さんを死なせた」と言われないようにするためにも必須であるそうだ。今年の夏のように猛暑が続くと、患者さんは熱中症になりやすい。暑さの中、医院まで歩いて来て、涼しい医院に入った途端に心肺停止を起こしてしまうことがある。そういうときに患者さんが歯科医院で亡くなるようなことがあれば、それ以降、地域で経営するのは非常に難しい状況になるというわけだ。そういう患者さんを回復させる自信がないうちは開業すらすべきでないと断言する。

「医は仁術です。算術ではあってはならない。基本の医を志した医師に患者さんはついてくるのです。自分の自信のなさを宣伝で補うのは一つの手でしかありません。審美歯科など宣伝が過ぎる面がありますが、本当の歯科医師であれば誰にでもできる診療ですよ。普通の治療をサボってはいけませんね。」

開業以来、平均外来患者数は増加の一途をたどり、現在は一日に60人から90人ほどの外来患者を数える。雨天だと歩くのが億劫な高齢の患者さんは来院を見送り、逆に仕事がなくなってしまう日雇い労働者の患者さんが多く来院したりと、地域柄、予約制度を設けていても臨機応変に対応して行かざるを得ない状況である。このほか兵庫県三田市の知り合いの歯科医院でも親知らずの抜歯を受け持っている。

「あるとき、抜歯を手伝いに行ったら、患者さんが5人も待っておられたんですよ。それ以来、定期的に行くことになってしまいました(笑)。」

歯科衛生士、歯科技工士などのスタッフにも「患者さんを親御さん、親戚などの身内と思え、他人と思うな」と教えている。

福原歯科医院「一番、人が見透かすのが心だと思いますね。心のない仕事をしてはいけません。」

開業にあたって、まず心配になるのが資金面だが、福原院長は「ぎりぎりの開業資金で開業すること」を警告する。前述の「算術」がその余裕のない医療から生まれるというのだ。逆に豊富な資金があれば、心が荒れることなく「医は仁術」を実践できる。開業後2、3年は支払いに追われる面もなくはないが「貯金をつぶせばえぇか」という心がけが肝要であるそうだ。福原院長は開業にあたり1階は待合室、2階を診察室としたが、その間を繋ぐエレベーターを設置した。これは今でも患者さんに好評である。1階を待合室にしたのは少しでも器械の音がしない場所で寛いで待ってもらいたいからだそうである。また診察室にもBGMが流れ、癒しの空間への志向が感じられる。音質にもこだわり、BOSEのスピーカーを備えた。

「この地域はいわゆるデンタルIQが全国でも最も低いだろうと言われています。生活保護を受けている患者さんも多いです。噛み合う歯がない患者さんにはまず入れ歯を作ることから治療を始めます。患者さんもタダだから来るという方もいますし、保険のしがらみもありますね。」

生活保護を受給している患者さんは糖尿病、腎臓病、肝臓病などの有病者が多く、またワーファリンなどを常用している脳梗塞や心筋梗塞の患者さんには、より慎重な手術などの制約もある。場合によっては内科などの病院と連絡を取りながら手術する必要がある。今後、ますます高齢化社会となっていくが、有病者、高齢者の患者さんへの知識をもっと学ぶ必要性があるという。

医科に続き、歯科でも今後、臨床研修制度が必修化される。これをインターン制度の復活と見る意見も多い。福原院長も大学に大勢の歯科医師を残しても、それだけの患者さんを診られるのかということには疑問が残ると語る。これまで3年で修得できたことが5年かかるのではないかと危惧されるというわけだ。そこで「まず師匠と呼べる人間を見つける」ことが大切だと語る。保管義務もあることから1つの病院には最低3年勤務することを必要としている。福原院長自身も他の大学と常に接しているような開業のあり方を現在も模索中である。

「本を読むのも大事ですが、それは必要最小限のことですよ。やはり経験こそ大事ですね。もらいたての歯科医師の免許証に比べて、私のはもうきれいな色ではなくなっています。でもその免許証にたくさんの経験が裏書されていると確信しています。刀職人やパン職人のように歯科医師も長い修行時代がいるのです。タービンって1分間に何回転するか知っていますか?48万回転ですよ。その回転を支える筋肉から作っていかなくてはいけないのです。」

福原歯科医院では現在、歯科医師、歯科衛生士を募集中である。福原院長は最近のトレンドになりつつある担当医制に懐疑的だ。

「自分の失敗を自分でごまかす風土が生まれかねない。卒後、5年も経てば質問すること自体が恥ずかしくなってしまう。鉄は熱いうちに打てといいますが、歯科医師も同じですよ。腹が据わったドクターを育てていきたいですね。」