歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人 なごみ会 林小児歯科 林 昌司 理事長

医療法人なごみ会 林小児歯科 外観林小児歯科分院 外観

今月ご紹介する林小児歯科の林昌司院長は大阪大学歯学部を卒業後、小児歯科を学び、9年間の勤務医生活を経て、満を持して小児歯科で開業したドクターである。
開業地がJR奈良駅から徒歩5分の奈良市三条本町というアクセス良好な地であることも幸いしているが、広い年齢層に対して小児歯科の基本に則った診療システムを実践し、開業以来、患者数は右肩上がりを続けているという。
2012年には近鉄学園前駅前に分院を開設し、こちらも順調に地域に根付きつつある。

医療法人 なごみ会 林小児歯科 林昌司理事長

医療法人 なごみ会 林小児歯科 林 昌司 理事長

プロフィール

1958年 生まれ
1982年 大阪大学 卒業
1991年 林小児歯科 開設
2012年 林小児歯科学園前分院 開設

開業に至るまで

まず小児歯科医を目指した経緯について、お話しいただけますか。

もともと子どもが大好きでした。女性にはモテませんでしたが、子どもにはモテていましたからね(笑)。
それで学校の先生になりたかったのですが、深い理由はなく、受験の難易度などから阪大歯学部を志すことにしました。
ですから歯科の中で小児歯科を専攻しようと思ったのは自然な経緯で、5年生の終わりには決めていました。
岡山大学小児歯科教室の下野前教授が当時、阪大で助教授をされており、師事しました。
卒後、大学院で小児歯科をさらに学びたいという希望もあったのですが、南大阪療育園歯科で非常勤歯科医師のみによる体制を改め常勤歯科医を置きたいという下野先生のご要望を受け、初代常勤医として赴任することになりました。1982年のことです。

南大阪療育園は障がい児専門施設ですね。そこで学んだことはどのように活かされていますか。

南大阪療育園は主に脳性マヒなど肢体不自由児のための病院です。
歯科には肢体不自由児のほかにも様々な障がいの子どもが来ていました。
障がいを持った子どもたちの診療を通じて、「障がい児の歯科は最も基本的な小児歯科の姿である」との認識を持つに至りました。

開業を決意したきっかけをお話しください。

歯科医になった当初から開業を考えていたわけではありません。
ただ南大阪療育園は自治体からの補助金を受けており、私どもの給与が年齢とともに上がっていくことで、このままでは逆に「お荷物」になるのではという思いがあったので、開業することにしました。

開業にあたって、どんなことを中心に準備されましたか。

大阪府茨木市の岡本小児歯科で5年間、非常勤医師をしながら勉強させていただきました。
下野先生の同期の岡本先生は全国小児歯科開業医会の初代会長を務められ、素晴らしい臨床を実践されてきました。
そこで小児歯科臨床のあるべき姿と診療スタイルを学びました。岡本先生は誰がやっても80点のことができるように教えられます。
一方、下野教授は「患者が100人いれば教え方も100通り」という考え方で、その真髄を理解するには時間が必要となります。
私の場合、お二方の教えのいいとこ取りをさせていただいたのですから、本当に有り難いことだと思っています。
矯正歯科は、同じく下野先生と同期のくしま矯正歯科久島先生に9年間教えて頂きました。

場所の選定はどのように考えられましたか。

小児の患者さんが通いすいところにしたかったので、目立たなくてもいいが駅から近い場所をさがしました。
最初は現在地の近くのテナントビルに開業しました。ところが、駅前再開発でそのビルの一部が道路となり、手狭になったので、2003年にこちらに移転したのです。
もともと民家だったところを、あまり手を加えずに内装するつもりでしたが、結局、改装して増築しました。

デザインも様々なこだわりがありますね。

バリアフリー設計で、診療室にも車椅子のまま入れます。また、セミオープンですので、立つと全体が見渡せるようになっています。
ブラッシングコーナーは、中央に通常の高さの洗面台と低い子ども用の2種類と、各チェアーサイドに設けました。
待合室は広く、プレイコーナーも設けてありますので、子どもさんは診察前の時間を楽しく過ごしているようです。
プレイコーナーでは天井を青色に塗って、青空が広がる外で遊んでいるかのような雰囲気を作りました。
子どもの発達に良いと思われる絵本とおもちゃを用意しています。最近のおもちゃ売り場では「おもちゃが主体」で、子どもがおもちゃに遊ばされているようなものが多く見受けられるのが残念です。
当院ではあくまでも「子どもが主体」で、子どもの工夫のもとにおもちゃが色々な応え方をするものを選んでいます。

分院の1階は「ブルーオーシャンに浮かぶ大きな帆船」が出迎えるエントランスホールと海がテーマのキッズコーナーを設置しており、歯科医院が怖いというイメージをできるだけ減らす工夫をしています。
バリ島がモチーフのテーブルとイスを造り、その1角にドリンクコーナーを設置しました。
テーブルの奥には5箇所の放射状に並ぶパウダースペースがあり、口腔ケアグッズの試用に使っていただけるようにしました。

帆船の内部に診療室のテーマを描いた絵があり、そこにはパウダースペースが「人魚の滝」ドリンクコーナーが「妖精の泉」で、子どもたちが診療室へ歯の健康のための冒険に出かける流れ図になっています。

設備では、本院、分院ともに外来環境体制の施設基準をクリアしています。
両院ともにEr-YAGレーザー、分院にはCAD/CAM装置があります。
検査に関してはう蝕リスクテスト、レーザーう蝕検知、口臭測定、咬合力、心電図、唾液緩衝能、唾液Ph測定などが可能です。

小児歯科では歯科衛生士の役割が非常に大きいと思われますが、スタッフ集めやその後の教育に関してお話しいただけますか。

開業当初は歯科衛生士2人からのスタートでした。
教育に関しては岡本先生の厳しさを参考にしながら、現在も模索しています。歯科衛生士も子どもの口の健康を育てるところに遣り甲斐を感じているようです。
小児歯科での定期健診というと歯磨き指導が真っ先に思い出されます。
もちろん歯磨き指導も重要ですが、当院では食生活の指導を重要視しています。口の健康を育成することで、身体も心も健康になってほしいのです。
う蝕に関しては「歯の表面の砂糖時間」を基本に指導し、食生活の改善を歯科衛生士がマンツーマンで指導しています。
良い育児をすれば虫歯は減ります。たとえば、朝食を摂らない子どもが増えていると言われていますが、朝食抜きの子どもの方が3食食べる子どもよりも虫歯が多いので「甘いおやつを禁止するよりは、しっかり御飯を食べよう」と言っています。
これからの歯科は食育に積極的に取り組んでいく必要があると考えて情報発信しています。

リコールの3段階のシステムについて、ご説明をお願いします。

当院では保護者指導中心の「にんじんクラブ」、子ども本人へと指導の中心を変化させている「キャロットジュニア」、成人のPMTC中心の「キャロットくらぶ」と、年齢別にリコールを分けていますが、これが患者さんの定着につながっていると思います。
小児歯科の場合は急激に患者数が増加するとリコールシステムが崩壊します。最初は欲張らず、患者さんに長く来てもらえるように努めないといけません。
「キャロットジュニア」は主役が保護者から本人に変わるところで、本人の健康観を育成して、歯並びや歯周病に対応しています。
この時期は塾通いなどで歯科医院へ来ることがおざなりになりがちですが、この層を大切にすることで、定着が可能になったと思います。
毎月10人増やしていくことが、1回のみの診療で終わる100人の外来患者さんよりも大きいですね。
これで不況になっても、近くに歯科医院ができても、患者さんを減らさずに済むようになります。スタッフも熟練させながら、徐々に増やしていけるのです。

基本理念の「健康な口は最高の贈り物から、健康な口は一生の宝物へ、小児歯科を原点とした医療をおこなう」について、ご紹介ください。

小さいうちは保護者が健康な口の育成の主役です。でも子育ては労力のいることですから、労苦を少なくして効果の大きい健康習慣にしていってもらう指導を行うのが長続きの秘訣です。
10代以降は自分自身で健康を考え、健康観をつくり、健康習慣を形成して、一生の宝物としてほしいということですね。
また、大人も含めて、小児歯科を原点とした医療を行おうと思っています。
「小児歯科が原点」には4つの特性があります。「理解と信頼」、「患者さんは最良の師」、「ライフサイクルを知る」、「健康を志向する医療」です。
その考えの中で、家族全員、そして地域で、子どもも大人も口の健康を目指していこうということです。

小児歯科での矯正の需要はいかがですか。

当院では、幼児期の反対咬合、低学年から行う比較的楽なⅠ期治療、本格矯正、インプラントアンカーを活用した成人矯正と幅広く対応しています。
特に、定期健診で歯列をチェックして成長期にタイミングよく、できるだけ楽に歯ならびの問題を改善していけるのが、小児歯科で矯正を行うメリットです。
小児期からの矯正に興味がおありの先生は矯正を学んでいただけます。

少子化が進む時代にあって、今後の展開をお聞かせください。

子どもの数も子どもの虫歯も減っています。
そこだけを診ていくと経営が成り立たないし、これからの小児歯科医療としては不十分です。病気ではなく健康な口を診ていくことを目指しています。
歯科医院に来るのは症状があるからではなく、健康を増進するためだとしてほしいのです。
全ての健康な人が対象になれば、患者さんに困らないことになります。

ほかに今後の展開をお願いします。

ゼロ歳からの予防管理ではなく、マイナス1歳からの予防管理ですね。つまり妊婦さんへの対応です。
生まれてくる子どものために正しい予防知識と良い口腔環境を獲得してもらいたいのです。
悪阻などできつい時期ではありますが、楽に過ごしてもらえるような指導をしていきたいですね。

現在、歯科医師を求人中ですが、求める歯科医師像についてお話しください。

やはり「子どもが好き」ということに尽きますね。子どもが好きであれば、小児歯科については経験がなくてもこちらで指導します。マニュアルもしっかり作っています。
小児歯科の基本は患者さんから学ぶということです。患者さんは一番良い先生なので、心のアンテナを伸ばす気持ちで診療に臨めば、必ず上達していくと思います。
ですから、小児歯科未経験でも心配しないでください。なお、小児歯科を標榜していますが、実のところ、午前中は一般歯科の診療が主です。
一般歯科はある程度、経験がある歯科医師を求めていましたが、最近は新卒の歯科医師も入職し、勉強しながら、大きく成長してくれています。

若い歯科医師にアドバイスをお願いします。

基本は無痛治療をしています。痛みを絶対に与えないように、麻酔も痛くないことが大切です。
もう一つはなるべく歯を削らないことです。一般的な削り方だと、子どもには削りすぎになるので、必要最小限の削り方をして、健康な歯を削らないようにしています。
小児歯科ではムシ歯を削って詰めるだけで治そうとすると、失敗します。なぜなら、子どもは虫歯進行のスピードが早いからです。
穴が空いているから詰める、熱が出たら下げるというのは対症療法ですが、小児歯科では原因療法が不可欠です。
医科では発熱した患者さんに対し、なぜ発熱したのか?と考えながら対応しています。
同じように、小児歯科でもムシ歯になった背景を考え、原因を取り除くことで健康にしていこうというのが基本です。
小児歯科や障がい児歯科という科目は、外科や補綴のような個々の病変に対応した科目ではなく、患者さんが初めにあって、その必要性に合わせて存在しています。
患者さんありきだという姿勢を持ってほしいと思っています。
その意味で、高齢者歯科は近い位置にあるといえますね。子どもの発達曲線を逆に見て考えるわけです。
小児歯科ではプラス成長をずっと見ていきますが、高齢者の方はマイナスの成長をしています。したがって、プラスの成長変化を見てきた分、一般歯科よりもマイナス成長を理解しやすいと言えます。
アンチエイジング、訪問診療はまだ取り組み始めたばかりですが、今後、進めていくべき分野でしょう。

最後に一言、お願いします。

高齢者を診療することで、8020は小児期から目指すのがいかに大事なものかを再認識しました。
人生の後半を有意義に過ごすことと、口の健康は密接な関わりがあることがわかります。
また、歯周病とがんや心臓病など全身との関係について多くの研究が進み、歯科から全身の健康へ寄与できる可能性があきらかになりつつあります。
これからますます歯科が担うべき使命は大きくなり、やりがいも増えるのは間違いありません。時代の中で求められる新しい歯科医療を目指していきたいと思っています。