歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

ひだまり歯科クリニック 飛田 達宏 院長

加茂歯科クリニック 外観

兵庫県芦屋市は六甲山地と大阪湾の間に広がり、自然に恵まれた国際観光文化都市である。北部は高級住宅街として全国的にも有名だが、街の東西を阪急電鉄神戸線、JR神戸線、阪神電鉄本線が通っており、大阪市や神戸市へのアクセスも良好である。
ひだまり歯科クリニックは阪神芦屋駅から徒歩1分の場所に2010年に開業した歯科医院である。完全予約制で、痛くない治療、優しい対応を心がけ、矯正などの自費診療にも力を入れている。
今月はひだまり歯科クリニックの飛田達宏院長にお話を伺った。

むこうはら歯科医院 向原 正 院長

ひだまり歯科クリニック 飛田 達宏 院長

プロフィール

  • 1978年 大阪府 生まれ
  • 2003年 大阪大学歯学部 卒業
  • 2007年 大阪大学大学院 修了
  • 2007年 延藤歯科医院 勤務
  • 2008年 藤原歯科医院 勤務
  • 2010年 ひだまり歯科クリニック 開設
  • 【学会 他】
  • 日本歯科保存学会会員
  • 日本口腔インプラント学会会員
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開業に至るまで

歯科医師を目指したきっかけをお聞かせください。

第一志望の大学は大阪大学と決めていたのですが、学部を決めかねていました。父が電気関係の仕事をしていたので、私も工学部に進もうかと漠然と考えていま したが、工学部と歯学部の偏差値の差がほとんどないことが分かったのです。4年間の工学部と6年間の歯学部の間でかなり迷いましたし、親戚の中に歯科関係 の仕事をしている人もいなかったので、高校3年生の夏に阪大歯学部のオープンキャンパスに行ってみました。そのときに大阪大学歯学部附属病院の凄さを目の 当たりにしたことと、歯科医師の白衣にも憧れを感じて、歯科医師を目指そうと思いました。

大学時代のエピソードをお願いします。

「大学生になったらテニスをする」という、勝手なイメージを持っていた私は歯学部テニス部に入部しました。テニス未経験だった私でしたが、週2回の練習で 少しずつ上達しました。夏に日焼け止めを塗らずにテニスをしていたため、肌が真っ黒になっていました。当時の夏合宿は軽井沢で行っていたのですが、合宿中 は体重が落ちることが多く、1年生のときには50キロを切ってしまうこともありました。頬は痩せこけて、周りからも心配されるので、無理にでもご飯を食べ るようにしていましたね。それでも多少は痩せてしまいましたが、テニス部に所属していたお蔭で、今でも先輩や後輩との交流があり、情報交換させてもらって います。

勉強はほとんどしていませんでした(笑)。再試験にかろうじて合格することで留年を免れ、国家試験にも何とか一回で合格しました。

大学院に進まれたのですね。

大阪大学大学院の歯科保存学教室に進学しました。保存科に進んだ理由は6年生のときの病院実習でお世話になった先生が保存 科にいらっしゃり、勧めてくださったからです。大学院生として研究を行いながら、大阪大学歯学部附属病院で技術と知識の向上に努めました。忙しい毎日でし たね。大学院では実験データの解析や分析、プレゼンを行う必要があり、本格的にワードやエクセル、パワーポイント、フォトショップやイラストレーターを 使っていました。開業してからもこういったソフトを使うことが多々あり、大学院での経験がこんなところで活かせるとは思ってもいませんでした(笑)。

大学院時代には歯科医院での非常勤医師も経験されましたか。

大阪府茨木市の西尾歯科医院と兵庫県伊丹市の福武歯科医院の週に1日ずつの勤務を行いました。西尾歯科医院の院長は治療技術だけでなく、スタッフの接遇な どに非常に力を入れておられました。外部講師の方に月に1日、来ていただき、スタッフ全員で研修を受けるのです。私もスケジュールを調整し、よく参加させ てもらいました。このときに学んだことは今の患者さん対応の基礎になっていると言っても過言ではありません。院長からは治療技術についても指摘を受けるこ とがありましたが、多くの指摘をしていただけたという環境には本当に感謝しています。

福武歯科医院の院長は私ができることを少しずつ任せてくれる方でした。特に、親知らずの抜歯は福武歯科で基礎をしっかり学ばせてもらい、多くの経験を積ま せていただきました。また、歯科医院の中に歯科技工士さんがいたので、教わることも多かったですね。

勤務先を選ばれた理由はどんなことですか。

大学院を卒業し、28歳になってようやく社会人として働くことになりました。勤務先を決めるにあたって決めていたことは、歯科医院内に歯科技工士がいて、 歯科技工士からの教育環境も整っていること、審美歯科やインプラントの症例が多いこと、一人の診療時間を最低でも30分以上確保していること、でした。歯 科医師が歯科技工士とゆっくり話し合う機会はなかなかないので、「歯科技工士さんと話し合いながら、患者さんの歯を作っていきたい」と思っていましたし、 最先端のインプラント治療や審美歯科に力を入れている歯科医院で自分の技術を磨きたかったのです。また、一人の患者さんに30分以上の治療時間を確保でき なければ治療の質が低下してしまうことがあるので、それも条件でしたね。それらの3つの条件が全て揃っているのが延藤歯科医院でした。
延藤歯科医院は大阪市の中心部、北新地にある歯科医院です。延藤院長や歯科技工士さんにご指導いただき、毎日が本当にきつかったですが、楽しくもあり、遣り甲斐のある環境でした。

藤原歯科医院に転職されたのはどうしてですか。

大学の医局でお世話になった先輩が藤原歯科医院の副院長だったのです。その先輩が開業されることになったので、私が副院長として入職することになりまし た。延藤歯科医院で1年半ほど働いたところで、延藤歯科医院で学びたいことはまだあったのですが、いずれは開業するつもりでしたから、副院長職を経験した いと思い、転職を決意しました。
副院長として入職したので、いきなり3人の後輩歯科医師を指導することになりました。指導にあたっては未熟でしたから、どう言えば相手に分かってもらえる のかなどを考える機会が増え、コーチングなどの本を読んで勉強しました。副院長としての仕事をすればするほど、「独立して、自分の歯科医院を持ちたい」と いう気持ちが強くなってきましたね。そこで、藤原院長に相談し、開業場所が見つかるまで勤務させていただくことにしました。

開業しようと決断されたいきさつをお聞かせください。

開業場所を見つけることは非常に困難を極めました。コンビニエンスストアより歯科医院の数が1.7倍もある状況で、自分が理想とする場所はなかなか見つか るものではありません。結婚して芦屋市に住むようになったのですが、あまりに住み心地がいいので、できれば離れたくありませんでした。しかし、芦屋市に限 定していると、いつ開業できるか分からなかったため、東は滋賀県、西は岡山県の手前までと、かなり広範囲で探していたのです。気になる物件が見つかれば、 ドライブと称して妻と出かけ、見に行っていました。実際に見に行ってみると、すぐそばに霊園墓地があったり、隣がブティックホテルだったり、人通りが全然 ない場所だったりして、一向に見つかる気配がありませんでしたね。その頃、開業場所について色々と相談に乗ってもらっていたのがいちよし整骨院の院長でし た。一種の職業病なのか、腰の具合が悪く、よく通院していたのです。そんなときに、いちよし整骨院が入居しているビルの1階に入っていた居酒屋が撤退する ことになり、新たな入居者を探すことになったそうで、真っ先に候補に挙げてもらいました。
スケルトンになった状態で内見したとき、大きな窓から陽が入り込んできて、とても明るい印象を覚えました。

「まさに陽だまりだ」と直感した私はその場所で開業しようと決心しました。実は、「ひだまり歯科」という名前には陽が当たって明るい歯科医院にしたいという想いが込められているんです。

そして、2010年6月に開業しました。

設計や内装はどのようにこだわりましたか。

開業前に何軒も歯科医院を見学し、どういった内装にするか考えていたのですが、自分の好きな内装をしてくれる設計士に出会ったので、設計士と相談して決め ていきました。受付は落ち着いた雰囲気にしましたし、キッズスペース付きの診療室には可愛らしい壁紙を選んでもらったりして、設計士ならではのこだわりが あったところは良かったですね。

資金調達に関してはいかがでしたか。

恥ずかしながら自己資金がかなり少なく、開業できるかどうか心配だったのですが、藤原歯科医院を紹介してくださった先輩が税理士さんも紹介してくださり、その税理士さんのお蔭で銀行から融資が下りました。今でもその税理士さんには顧問としてアドバイスをいただいています。
診療機器は勤務していた歯科医院と同じチェアや器具などを選びました。今ならよりこだわって時間をかけて選んでいたと思いますが、当時はほかの開業準備で忙しかったのです。

診療圏調査を行いましたか。

業者さんにお願いしたところ、1日8人という結果が出ました。かなり少ない人数でしたので、参考程度にして、どう増患していくのかを考えました。しかし、 開業して1カ月が経過した頃、ビルの補修工事があり、開店休業状態になってしまったのです。外から見ると、歯科医院があるのかどうかも分からない状態が2 カ月も続き、新規の患者さんの数が減っていくのを実感しました。そこで、この間に「どうすれば患者さんに喜んでもらえるのか、どうすれば痛くない治療がで きるのか」ということを真剣に考え、それをホームページに書いていくことにしました。この期間があったからこそ、ホームページの内容が充実し、ホームペー ジを見て来院してくださる方が増えたと思っています。このときにSEO対策やPPC対策に取り組みました。そのお蔭か、少しずつ患者さんが増えてきました。

開業当初の頃、ほかに苦労されたことはありますか。

患者さんが増え、忙しくなってきたので、スタッフの増員を考えていたのですが、スタッフの体調不良やご主人の転勤などが重なって、逆にスタッフが減ってい く事態になったことです。急遽、募集をかけて増員したのですが、忙しいあまり、スタッフ教育に時間を取れず、スタッフが育たないまま、私のことが嫌いに なって退職するという悪循環に陥ってしまいました。そこで、スタッフ教育のためのマニュアルを作ることにしました。マニュアルがあると新人スタッフはもち ろん、教える側にもメリットが大きいですね。教える人が変わっても、マニュアルがしっかり作ってあれば、教える内容にムラが出ません。ただ、マニュアルは 一度作ったら終わりではなく、最低でも年に一度の修正が必要ですので、その都度、修正するようにしています。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

経営理念というほどのものでもないかもしれませんが、当院では「歯科医院ではあるけれど、患者さんに安心して快適に過ごしてもらう」ことと「患者さん、ス タッフともに、笑顔と活気が溢れる歯科医院を作っていく」ことをモットーにしています。そのために当院で心がけていることは、痛くない治療をすること、 しっかり説明して理解してもらうこと、接遇に力を入れること、予約制で出来るだけお待たせしないようにする、ということです。歯科医院は行きたくないとこ ろである以上、これらは必須ですね。
一昔前は「丁寧で上手な治療をすれば患者さんはついてきてくれる」と言われていたそうですが、歯科医院が乱立するこのご時世、それだけではうまくいきませ ん。上手に治療するだけでなく、患者さんには痛くないようにしたいですし、治療前後には必ず説明して、治療内容を理解してもらうようにしています。また、 接遇に力を入れ、受付や患者誘導など、笑顔で対応してもらうようにしています。さらに、完全予約制で、極力待ち時間が出ないようにしています。この結果、 歯が痛くなって飛び込みで来られた方より、事前に予約を取っている方を優先して治療することができるので、治療時間の確保に繋がっています。

診療方針

どのような診療方針でいらっしゃいますか。

以前は30分の治療時間を確保するようにしていましたが、私自身の治療スピードが向上したため、今では15分の治療という予約もあります。ただ、私以外の 歯科医師の場合は治療に慣れる必要があるため、最低30分は時間を確保するようにしています。痛くない治療をするために、痛くない麻酔をしよう、また治療 の説明をきちんとしようと思うと、ある程度の時間が必要ですしね。
また、当院では初診の患者さんには必ず口腔内写真5枚法とレントゲン撮影を行っています。患者さんに今のお口の状態を知ってもらうために必要ですし、治療 が終わったときに「最初はこんな状態でしたが、頑張ってくださったお蔭で今はこんなに良くなりました」という会話が自然に出てくるようになります。さら に、写真を残しておくことで、治療方針を立てやすくなったり、ほかの歯科医師に相談しやすくなるなどのメリットが生まれます。

増患対策

どんな増患対策をなさっていますか。

以前はホームページ経由で来られる患者さんが多かったのですが、有り難いことに、ここ2、3年は紹介で来られる方が増えました。当院の痛くない治療や分か りやすい説明など、患者さんに支持される部分があるからでしょうか。また、痛いところだけを治したいという方、時間をかけずに治してほしい方などが減って きました。これは「時間をかけて、しっかり治療する歯科医院」ということをホームページに全面的に出しているからでしょう。私が全ての患者さんに口腔内写 真を出して説明し、主訴の部分だけでなく、ほかの歯の状態や今後のリスクを説明し、主訴以外の部分も必要な時期に治療するようにしているからかもしれませ ん。
当院の周りにも多くの歯科医院がありますが、当院では「時間をかけて治療します」という方針を打ち出しています。そのため、一時的に患者さんが減っている のかもしれませんが、当院の考えに共感し、ついてきてくれる方が増えるという、素晴らしいメリットがあると思っています。

患者担当制のメリットを教えてください。

私が常勤で勤務した歯科医院は全て患者担当制で、スキルアップに大きなメリットがあったと感じましたので、当院でも採用しました。複数の歯科医師が一人の 患者さんを診てしまうと、治療がどこまで進んでいて、次にどの治療をするのかが分かりにくいことが多くなります。担当の歯科医師が治療計画を立て、このよ うな方向で進めていくという説明をすると、患者さんが理解しやすくなるというメリットがあります。歯科医師も自分の治療が3年後、5年後にどうなったの か、自分のスキルがどこまで伸びたのかを確認できます。ただ、勤務医が治療に行き詰まったときは私が横について、相談に乗っています。

若い歯科医師が勤務先を決めるにあたってのアドバイスをお願いします。

目的としているものをまず確認しましょう。お金が目的なのか、技術向上が目的なのか、開業が目的なのかなどですね。目的を決めてから、その目的にあった歯科医院を探すといいと思います。

貴院はどの目的に当てはまると思われますか。

お金メインではないですね(笑)。患者担当制で、患者さんをきちんと診たい、スキルアップしたいとお考えの歯科医師向きです。さらに、開業を前に分院長を経験しながら勉強することもできます。

新卒の歯科医師の教育について、教えてください。

最初は私の横について勉強してもらいます。そのうえで簡単な虫歯治療などをお任せします。外部に発注した、練習専用の模型もありますので、練習しながら実践もしてもらいます。スキルアップのためには時間を確保して練習する必要がありますね。

スタッフ教育

スタッフ教育はどのようになさっていますか。

マニュアルを作って、治療のやり方を理解してもらったり、最低限の治療の質を確保するようにしています。また、痛くない治療をするためには、痛くない麻酔 が必要不可欠ですので、麻酔の方法はかなりうるさく指導しています(笑)。さらに、治療の説明をきちんとしようとするためには、自分自身が治療内容を理解 すること、そして治療内容を患者さんに分かりやすく説明できることが必要です。そこで、勤務医には私が患者さんに説明している内容を覚えてもらうようにし ています。「痛くない麻酔」、「分かりやすい説明」ができるようなると、患者さんからの信頼が一気に上がり、仕事に対して遣り甲斐が出てくるようになりま す。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

いずれは開業を希望している勤務医が多いので、開業がうまくいくようなサポートを行っています。SEO対策やPPC対策などの集患の部分、そしてスタッフ の求人や人材育成などのマネジメントの方法などです。分院の展開も考えていますので、分院長をしてもらうことも視野に入れています。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

昔のように「開業さえすれば流行る歯科医院」という時代ではなくなりました。私自身も開業当初から順風満帆というわけではなかったのですが、勤務医の先生 には私と同じような失敗をしてほしくないと願っています。そのためには、開業場所の選定に時間をかけたり、治療スキルの向上だけでなく、分かりやすく説明 すること、患者さんに理解していただきながら治療を受けてもらうようにすること、スタッフの求人方法や教育方法など、多くのことを学んでほしいと思ってい ます。

プライベート

プライベートはどのようにお過ごしですか。

週に1回程度、テニススクールに通っています。また、愛犬と散歩したり、遊んだりするのもストレス解消になりますね。

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