歯科経営者に聴く - あべひろ総合歯科 阿部ヒロ理事長

歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 輝未来 あべひろ総合歯科 阿部 ヒロ 理事長

加茂歯科クリニック 外観

埼玉県三郷市は東京都に隣接し、都心まで約20キロの距離である。高度成長期から宅地化が進み、みさと団地などの大規模団地が整備されている街である。JR武蔵野線のほか、近年はつくばエクスプレスが開通し、都心とのアクセスが容易になった。
あべひろ総合歯科はJR武蔵野線の三郷駅から徒歩1分の場所に位置する。阿部ヒロ院長はインプラントなどの高度先進医療を得意とするが、あべひろ総合歯科では保険診療のみならず、自由診療にも力を入れている。今回はあべひろ総合歯科の阿部ヒロ院長にお話を伺った。

医療法人社団 輝未来 あべひろ総合歯科 阿部 ヒロ 理事長

プロフィール

  • 福島県生まれ
  • 東京歯科大学 卒業
  • つがやす歯科医院 勤務
  • 海岸歯科室 勤務
  • 東銀座歯科医院 院長として勤務
  • 槙原歯科医院豊洲インプラントセンター
  • 院長として勤務
  • 2012年 あべひろ総合歯科 開設
  • 【学会 他】
  • 日本口腔インプラント学会会員
  • 国際インプラント学会(ICOI)会員
  • 日本歯周病学会会員
  • CHP研究会
  • 日本臨床歯周病学会会員
  • 日本歯科麻酔科学会会員
  • 昭和大学口腔外科特別研究医局員
  • TEAM of IMPLANTOLOGY SHOWA UNIV.
  • (昭和大学インプラント研修チーム)
  • International Oral Medical Network
  • (IOM)会員
  • 臨床ゲノム医療研究会認証医
  • 美容整形医療研究会・審美歯科顧問
  • (医療コーディネーターとして各地域で講演活動を行う )
  • Saturday dental Study Group(SSG)理事、代表/指導医
  • (日本の歯科医療の現状と教育に疑問を抱き、医療関係者を集め勉強会を主催)
  • Journal Club会員
  • デンタルコンセプト21会員
  • デンタルプレミアムクラブ会員
  • MID-G正会員
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開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

中学生の頃に医療職に就きたいと漠然と思ったのです。中学生までの人生の中ではなかなか思うようにいかなかったのですが、人の役に立つ職に就きたいということだったのでしょうね。
歯科医師になろうと決めたのは高校2年生のときです。当時は「お医者さん」と言えば権威があって、かっこいい存在でしたし、憧れましたね。感謝される仕事であることにも惹かれました。

学生時代に思い出に残っていることはありますか。

テニスのサークルに入っていました。東京大学、東京医科歯科大学、日本大学、日本歯科大学、早稲田大学などとのインカレサークルでしたので、楽しかったで すよ。また、学生部という組織にも参加し、学園祭の実行委員を務めました。学園祭で、まだ売れていなかった頃のロンドンブーツを呼んだのが思い出でしょう か(笑)。それから姉妹校である韓国の延世大学を訪問したことも印象に残っています。
当時は藤田晋さんなどの学生起業家が出始めた頃で、「藤田に学べ」と言われていました。私も色々なことにチャレンジしたかったのですが、インターネットも それほど普及していなかった頃ですし、医療系の大学は閉鎖的でしたので、情報をどのように得ていくのかという迷いもありました。

卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

最初は北海道帯広市のつがやす歯科医院に勤務しました。つがやす歯科医院を選んだ理由は北海道でスノーボードをしたかったからです(笑)。休みの日には大 雪山や富良野で存分に楽しみましたよ。「北の国から」の世界でしたね。学生時代にやりたいことができなかった分、就職したら面白そうなことには何でもチャ レンジしようと考えていました。そういう動機ではありましたが、栂安院長からは歯科医師人生のあり方を学びました。
栂安院長はとてもアクティブで、当時、既に食育をされていたのです。雪印乳業の事件やBSE問題を受けて、帯広市の人たちが地場製品を食べなくなっていた のを見て、地場製品を食べないのは良くないとおっしゃっていました。また、家族で食事する文化も廃れつつありましたし、食や介護に歯科医師として関わり、 地域の方々の健康価値を高めないといけないと、150人ほどのスタディグループを組織され、講演会なども積極的に開催されていました。

勤務先で学ばれたのはどんなことですか。

既に歯科不況と言われていましたが、つがやす歯科医院にいることで協力者を集めて、自分の思いを伝え、皆の考えをシェアできれば何でもできるし、形になっていくと実感しました。それが社会貢献だし、街の賑わいに繋がると思いましたね。活力や活気がないと、物事をプラスに捉えられないものです。

それから関東に戻られたのですね。

全身管理を学ぶために麻酔科の医局に入りたかったのです。母校にいらした鶴木隆先生はスイスで学ばれ、自己血輸血による顎矯正手術を日本に普及させた第一 人者でいらっしゃいます。私も鶴木先生のような技術を身につけたかったのですが、講座のしきたりでアルバイトができないと聞き、諦めざるをえませんでし た。
その後、50軒ほどの歯科医院に見学に行ったのですが、歯科医療には未来が持てないような気がして、歯科医師を辞めてしまいました。

それで、どうなさったのですか。

リクルートスーツを着て、就職活動をしましたよ。ある外資系企業では最終面接まで進みましたが、そこで歯学部から通して7年やってきた思いというものを投 げかけられたのです。私は自分の歯科医療への思いにようやく気づき、また歯科医師に戻ろうと思いました。そして、母校の近くの歯科医院に勤めたのです。
歯科医師に戻ったからには言い訳をしないと決めました。襟を正しましたね。まだ技術もありませんでしたので、猛烈に勉強を始めました。本を読んだり、夜中 まで実習や予習をしました。歯科技工士さんよりも遅くまで残っていましたよ。大学の先輩にも教わったし、スタディグループを作ってディスカッションをした りしていました。

それがSSGだったのですね。

若い歯科医師が集って、教育プログラムを作り上げました。当時は上の歯科医師が下の者に教えない風潮があったので、それではいけないと思ったのです。その うちSSGを通して、学会や研修会の輪が広がっていきました。その頃の私は稼いだお金はほとんど全て勉強会に費やしていました。勉強の習慣を持つことや一 流の歯科医療に触れる経験は本当に大切ですね。

開業しようと決断されたいきさつはどんなことだったのでしょう。

槙原歯科医院の分院である豊洲インプラントセンターに院長として勤務を始めたときから開業を視野に入れていました。結局、豊洲インプラントセンターには7 年ほど勤務し、教育プログラムの作成やスタッフの育成などの経験を積ませていただきながら、開業地を探していました。槙原先生は私の開業には非常に寛大で したね。

開業地はどのように選ばれたのですか。

開業コンサルタントからの紹介です。私は200坪程度の土地を探していたのですが、なかなか見つからなかったのです。その頃は研修会をストップして、経営 を勉強していましたし、場所が見つかったからには開業しようと思いましたね。これまで培ってきたスキルを活かし、三郷市の患者さんのお役に立ちたいと自分 自身を奮い立たせました。

開業地の第一印象はいかがでしたか。

JR三郷駅前という立地ですから、失敗はないだろうと楽観視していました。ただ、前に入っていた物件の立ち退きが遅れ、私どもの着工が遅れたことは誤算でしたね。

設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

あまり時間がなかったためか、チェア8台分の配管を計画していたのにも関わらず、設計ミスで7台分になってしまいました。そのうちの3台からスタートし、現在は6台となっています。 「患者さんをしっかり診ることのできる歯科医院にしたい」というコンセプトのもとで、このレイアウトにしました。全体的には白を基調にしていますが、温かい雰囲気と高級感は相反するものですね。家も「3軒建てたらうまくいく」と言われるように、歯科医院も3軒建てないと満足できるものにならないのかもしれません(笑)。カウンセリングルームも2室の予定でしたが、1室になってしまったのが残念です。

開業にあたってはどんな苦労がありましたか。

資金繰りですね。無担保、無保証でしたので、ほぼ全ての銀行から貸し渋りに遭いました。CTを置くなど、規模の大きな開業でしたので、仕方がなかったのか もしれないですね。パワーポイントを使って、各銀行をプレゼンして回りましたよ。そんな中で一つの地方銀行だけが融資に応じてくれました。また、スタッフ 集めも大変でしたし、事業主としての最初の苦労を味わいましたね。

開業にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。

一人称、二人称、三人称の3つあります。
一人称は「I」ですね。私自身にとっての最適な環境でありたいことです。私が得意としているインプラントなどを推進していくこともこれに当てはまります。
二人称は「You」です。患者さんに喜んでいただき、技術に対する対価としての報酬を頂戴します。そして、患者さんを幸せにしてさしあげたいと思っています。スタッフも同様で、遣り甲斐を与える組織でありたいです。
三 人称は「They」、地域です。私どもはハロウィンやクリスマス、バレンタインデーなどにイベントを行ったり、出店を出したり、キッザニアのような歯科体 験ツアーを開催しています。歯科受診へのきっかけを掴んでいただくことで、地域に貢献していきたいですね。こうした取り組みが街の賑わいを創出することに 繋がると思っています。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

クオリティカンパニーでありたいです。患者さんのためになる歯科医療を行い、患者さんに健康観を徹底的に提供し、患者さんと価値と価値の交換を行っていき たいです。技術の対価としての報酬をいただくことでスタッフの生活の糧になります。収入がなければ、スタッフがしたいと思っている仕事やスタッフの遣り甲 斐をバックアップできません。スタッフが遣り甲斐を持って働くことで、歯科医院が活性化するのです。

診療方針

診療方針をお聞かせください。

適切なことを適切に、正しいことを正しく、伝えるべきことを伝えるということですね。ただ、伝えることに関しては課題があります。今後はトリートメント コーディネーターを通じて、患者さんへの情報提供をきちんと行っていきたいです。そして、そういった考え方が理解できるスタッフも増やしていきます。

患者さんの層はいかがですか。

近隣に新しいマンションが増えていますので、子どもの患者さんが多いですが、それでも2割ぐらいでしょうか。高齢の方も2割ぐらいですので、少ないですね。圧倒的に多いのが30代から40代の方々ですので、患者さんの年齢層としては非常に若いと言えるでしょう。

自費と保険の割合について、お聞かせください。

5:5です。自費率が高いのは私が高度医療に打ち込んできたからだと思います。私が持っている特殊技術に患者さんがついてきてくださっているんですね。難しい症例でも、技術の選択肢を豊富に持っているのが私の強みだと自負しています。

増患対策

どのような増患対策をしていらっしゃいますか。

ホームページはありますが、現在はリニューアル中です。私どもはまだ三郷市の住民の方々に十分に認知されていませんので、これからは口コミや紹介を増やし ていきたいですね。2015年はやれるだけやってみようと考え、投資しているところです。10投資したら、100返ってくることを目標に、結果にコミット していきます。

スタッフ教育

歯科医師教育について、お聞かせください。

以前と違い、患者さんがいらっしゃる現場で教えると、患者さんからクレームが来ることもありますので、こちらから課題を与えて、それに取り組んでもらうこ とが多いです。しかし、私に聞けば何でも解決できてしまうとなると成長しないので、若手の歯科医師が自分で考え、悩むといった探究心やハングリー精神を持 てるように指導しています。一方で、勉強会や研修会のことを私以上に知っている院長はいないと思いますので、良い勉強会や研修会には積極的に参加させてい ます。若手の歯科医師には「死ぬ気で頑張れ」と言っていますし、やがては教育できる人材になってほしいと願っています。

歯科衛生士への教育はどのようになさっていますか。

歯科衛生士は素晴らしい職業で、生涯歯科衛生士として活躍できる能力開発と環境を提供しております。技術的な課題をクリアさせていくことのほか、「あり方 教育」を実践しています。「あり方教育」の目的は内発的なモチベーションを向上させることです。ある事実に対し、マイナスの解釈をしてしまうとモチベー ションが下がりますから、プラスの解釈ができるように取り組んでもらっています。

歯科助手への教育についてはいかがでしょう。

医院のビジョンに自分の成長があるよう目標設定し、自己実現できるような教育をしています。 コンシェルジュになりたいと希望するスタッフにはほかの歯科医院の見学や勉強会への参加を促しています。そうしたところでは、いい友だちもできますからね。そういう支援を最大限に行って、バックアップしています。一流の歯科医師と組み、自己実現に繋げてほしいです。歯科医師としても誰と組むかで組織は変わりますから、スタッフ教育は重要ですね。夢や目標があれば生き生きとしてきます。私どもで働くことが人生を充実させる場であると思っています。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

無限大の可能性を信じて、成長させていきます。歯科医院内のキャパシティには限りがありますが、パワーパートナーを増やしていきたいので、歯科医師とマ ネージャーを募集しています。マネージャーが複数いれば、歯科医師は治療に集中できます。マネージャーを中心にして事務局を立ち上げて、分院展開などの地 域ニーズを探っていきたいです。受付はコンシェルジュ部隊として接遇スキルを向上させ、私自身はインプラントに磨きをかけたいですね。現在は月に10本程 度ですが、さらに増やしたいです。私の技術を使って、より多くの患者さんを救っていければと思います。
今後は予防を中心とした定期管理型の歯科医 院として患者さんの健康を守り、一度の出会いが一生のお付き合いになるようにしたいです。医院が提供する価値と患者さんの価値を交換しながら、コミュニ ティの繋がりを強め、街の賑わいを実現させていきたいですね。それを具現化できるイベントもより活性化させていきます。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

開業は自己実現であり、感謝でもあります。何かを本気で還元するつもりがなければ、開業してはいけないでしょう。しかし、その気持ちが強いのであれば、20代であっても、一日も早く開業すべきです。中途半端は駄目ですね。
組 織力を向上させるためのマネジメントについても勉強する必要があります。現在の歯科医師は30年前の歯科医師のように稼ぐことはできません。30年前の歯 科医師のような生活がしたかったら、その地域で一番の歯科医師になるしかないのです。個の力がないと所得には結びつきませんから、個の力を増大させる努力 をしましょう。

プライベート

プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

週に1回、大学院に通っていますので、帰りにライザップで身体を鍛えています。身体を鍛えるようになってからはゴルフのあとの疲れがなくなってきました。
ゴ ルフ以外の趣味としては読書や映画、ミュージカル鑑賞、テニス、スノーボードですね。また、英会話のレッスンも続けています。読書は経営に関する本や学術 書が中心です。最近、良かった映画は新垣結衣主演の「くちびるに歌を」ですね。主人公が過去の自分に気づいて、現実から逃げなくなり、心を開いていく過程 がとても印象的でした。夏にロンドンで学会があるので、本場のミュージカルを楽しみにしています。

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