歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

さくら歯科 小野 貴司 院長

さくら歯科 外観

福岡県飯塚市は福岡県中部に位置する市で、福岡県の中では福岡市、北九州市、久留米市に次いで4番目の人口規模の市となっている。
ひよ子饅頭の「ひよ子本舗吉野堂」、チロリアンの「千鳥屋」など、全国に知られる和洋菓子メーカーも多く、筑豊を代表する炭鉱経営者であった伊藤伝右衛門の本邸もあり、歴史を感じさせる地域である。
さくら歯科は飯塚市のベッドタウンにあり、一般歯科のみならず、訪問診療にも力を入れている歯科医院である。今回はさくら歯科の小野貴司院長にお話を伺った。

さくら歯科 小野 貴司 院長

さくら歯科 小野 貴司 院長

プロフィール

  • 1970年 兵庫県 生まれ
  • 福岡県立九州歯科大学 卒業
  • 兵庫県宝塚市国保診療所歯科 口腔外科 勤務
  • 一般歯科 勤務
  • 2005年 さくら歯科 開設
  • 2010年 さくら歯科 新規移転オープン
  •  
  • 【学会 他】
  • 福岡県立大学非常勤講師(~2011)
  • スタディグループ飛翔会
  • 審美歯科学会
  • 飯塚歯科医師会理事

開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけを教えてください。

私は兵庫県出身で、父が歯科医師という家で育ちました。最初は歯科医師にはなりたくないと思っていたのですが、紆余曲折があり、人生の回り道をして九州歯科大学に入学することになりました。

大学時代のエピソードをお願いします。

大学時代は友人にも恵まれ、非常に楽しい毎日でした。妻を含めた友人たちは今も私の財産です。クラブ活動は特にせず、家庭教師と塾講師のアルバイトに明け 暮れていました。そのときの教え子が慕ってくれて、今も小倉から家族皆で通院してくれているので、有り難いですね。結婚の相談をしてくる教え子もいました (笑)。
勉強はあまり真面目にしませんでしたが、その分、卒業してからすごく勉強するようになりました。自分に知識がなかったら、他人の身体を触 ることがいかに大変なのかと気づき、人が変わったように勉強しましたね。妻からも「学生時代は全然、勉強しなかったのに、卒業して臨床の現場に放り込まれ た瞬間に真面目になったね」と言われています(笑)。勤務医時代は遅刻や欠勤はしたことがないですし、新婚旅行のときに休んだ程度ですね。病欠しないよう に、夜更かしを避けるなど、健康管理には気をつけていました。

勤務先を選ばれた理由はどんなことですか。

歯科治療をさせていただけるところを選びました。歯科治療はしてみて初めて分かるものです。歯科医院によっては基本に厳しくてなかなかさせてもらえない医 院もあるでしょうが、私が面接に伺った歯科医院では代診の先生が「ここは色々なことをさせてもらえるから、自分にやる気さえあれば勉強になるよ」とおっ しゃったのを聞いて、いいなと思いました。担当制でしたので、私には合っていましたね。私の場合は遅れて歯科医師になったので、ひたすら実践をして、早く 一人前になりたかったのです。ただ、私どもの医院に卒業後来た歯科医師にいきなり放任主義で接することはありません。基礎的な技術や知識があってこその臨 床ですので、きちんと技術を習得していただいています。

親御さんの歯科医院を継承されていないのですね。

親は私に跡を継がせる気はなく、保証人ならないのが家訓でしたので、「困ったな」と思っていた時期もありますが、今は感謝しています。お蔭で、自分の力で何とかしようと鍛えられましたね。私のような出来の悪い息子には厳しいほうが良かったみたいです。

開業にあたっては卒後何年でというビジョンをお持ちでしたか。

早く一人前にはなりたかったのですが、卒後何年というビジョンはなかったです。漠然と5年から10年ぐらいが妥当かなという程度でした。5年間は修行して、それ以降に自分に開業できるだけの実力があれば、開業したいと思っていました。
勤 務医時代、院長先生に「いつぐらいになったら、開業にふさわしい実力がつきますか」と質問したら、「そんなことは人が決めることではなく、自分で決めるも のだ」と言われて、ハッとしたことがあります。なるほどと思いましたね。自分が開業しようと思ったときが開業のタイミングなのです。

では、開業のきっかけはどのようなものでしたか。

2院目の歯科医院に勤務していたとき、知り合いから訪問診療を頼まれました。それで勤務地から伺おうとしたのですが、色々な縛りがあったのです。勤務先に 不満はなかったですし、勤務歴も1年少ししかなく、あと2年は勤務したかったので困ってしまいました。しかし妻も歯科医師でしたので頑張れば何とかなると いう軽い気持ちで開業してしまいました(笑)。

訪問診療からスタートされたのですね。

ところが、開業後に訪問診療に行こうとしたら、依頼主がいないのです。施設のオーナーが「訪問診療に来てください」と言っても、入居者の方が「診てくださ い」と言わない限り、伺えないのですね。検診程度は行いましたが、認知症の方も多いので、ご家族からの訴えも必要なのです。それで、半年間は訪問診療がゼ ロの状態でした。訪問診療をあてにして開業したわけですし、お金もなかったからユニットもわずかで、設備投資もしませんでしたが、完全に当てが外れてしま いました。外来に関しては宣伝もせず、ドアに開業日の貼り紙程度しかしなかったので、初日にいらした患者さんは2人でした。よく2人もいらしてくださった なあと思いましたね(笑)。
しばらくは鳴かず飛ばずで、毎日が暇でした。その分、それまでの勉強不足を補うかのように、色々なセミナーに参加した り、来院された患者さんにゆっくり、丁寧にお話をしながら治療にあたることができました。今から思えば、最初から患者さんが大勢いらしていたら、自分にも 実力がありませんでしたし、良くなかったでしょう。2年間、じっくりと基礎固めができました。
開業のイメージが当初と変わってしまいましたが私は 今も、若い歯科医師が「いつ開業したらいいですか」と尋ねてきたら、かつての院長先生のように「自分で決めなさい」と言っています。著名な先生が「開業し ていいよ」と言ったとしても、開業後は誰も面倒をみてくれず、責任もとってくれません。自分を支えるのは自分だけですが、だからと言って、開業を怖いと思 わず、思い切ってトライしてほしいです。

開業にあたってのコンセプトやこだわりはどのようなものでしたか。

リコールのハガキを出すことと、キャンセルした患者さんに電話をすることは我慢しました。だから、患者さんから「どうして、ここの歯科医院は定期検診のハ ガキをくれないのですか。ほかの歯科医院はくれますよ」と怒られたこともあります(笑)。でも、私たちが「来てください」と言わないでもこの歯科医院に来 ることが自分の健康のためだと思っていただけるようなものを提供していきたいのです。
あえて看板もあまり出していません。歯科医院そのものがラン ドマークになるよう努力しています。内装のデザインは私がしましたし、外装はプロのデザイナーの方にお願いしましたが、色や貼るタイルは私が選びました。 蛇口一つをとっても、私のデザインです。それだけのこだわりがあるので、患者さんに快適であると思って頂けるように努力していきたいです。

経営理念

どういった経営理念をお持ちですか。

数字を追いかけたら、絶対にうまくいきません。私どもではレーザーなどを積極的に導入しています。いい治療結果を出して、患者さんが満足してくださった ら、私どもに必ず返ってきます。来てくださった患者さんのニーズはそれぞれ違いますが、それぞれの満足度をどう高めていけるかではないでしょうか。
もちろん、歯科医師サイドからの理想もありますが、押し付けがましくなく、「こういうこともできます」や「こういうことでどうですか」といった言い方で、一人一人の患者さんを大事にしていくことが大切です。見ている人は見てくださっていますよ。

患者さんとの関係作りが大切なのですね。

リーフレットを作ったり、色々なコンセプトを打ち出して、戦略を練るなどのシステム作りも大事ですが、ハード面ばかり固めずに、ソフト面をしっかりさせた いですね。患者さんは人間なのですから、システム化よりも人間と人間が向き合うことが大事です。私どもも忙しくなってきましたから、「開業当初のように、 先生と話せなくなった」とお叱りを受けることもあるのを改善したいと思っています。
私はシステム化とマニュアル化があまり好きではありません。治療にあたってはある程度のマニュアルは必要ですが、接遇に関してはどれだけ相手の気持ちになれるかでしょう。「自分の子どもなら、自分の家族なら」という思いはいつも脳裏にありますね。

診療方針

どのような診療方針をお持ちですか。

歯科医師の立場から「この治療がいいよ」という答えは多くありますが、患者さんの経済力は様々です。私たちがいいというものをできない患者さんもいますか ら、説明をきちんと行い、患者さんが何を望まれているかを把握します。治療法も色々なバリエーションを提示しますが、その患者さんが最も望んでいることを 早く見抜いて、その患者さんに合ったベストな選択肢である治療法を押し付けがましくなく、お出しできるように努力しています。

増患対策

増患対策として、どんなことをなさっていますか。

リコールハガキや看板に力を入れようかと考えた時期もありますが、今はとにかく一人一人の患者さんを大事にしています。極力純粋に口コミで評判が広がって いくように努力しています。開業から半年間は訪問診療がゼロでしたが、1件の依頼があってからは、その方々が「さくら歯科さんがいいよ」と勧めてくださっ たのです。それで、徐々に増えてきて、このような新規移転に繋がったのだと信じています。想いを言葉にしなくても人間対人間として伝わることもあるはずで す。黙々と仕事をして、患者さんに何かを感じていただけたらと思っています。

スタッフ教育

スタッフ教育について、お聞かせください。

私どももスタッフのことで悩んだ時期はあります。特に開業から2年間は混沌としており、チーム作りに失敗しましたね。それが飛躍した最大のきっかけはチー ムとして機能し始めたことです。院長とスタッフという立場ではなく、同じ目線に立って、自分がスタッフだったら、どのようにされたら嬉しいかを考えまし た。院長からすれば、給料をなるべく安くして、長時間、働いてくれたら嬉しいです。でも、それを出してしまうと、スタッフのモチベーションは下がります。 私が勤務医時代に何を望んでいたのかを思い出せば、休みをきちんともらうこと、頑張ったら頑張った分だけの賃金や給与をもらうことでしたから、できる範囲 での精一杯の待遇を考慮しています。
理想はファミリーのような気持ちでスタッフと一体になることですね。ただ、厳しく教育はしています。人間の身 体を扱うプロとしてどうなのか、受付という資格はありませんが、受付としてお金を貰う以上は受付のプロなのだというプロ意識を持って仕事をしているのかと いうことですね。自分が患者として通院したときに嫌だ、残念だと思うことがあれば、それを私どもの患者さんに思わせないようにということと、患者さんに とって、どういう歯科医院がいいのかということを常に考えてもらっています。接遇セミナーには積極的に参加を促しています。研修に行ってもらったり、外部 講師をお招きしてのセミナーを開催していますが、皆がよくやってくれています。気づいたら、チームを作れていました。成長途中ではありますが、私を支えて くれる、いい仲間が集まっています。

歯科医師教育についてはいかがでしょう。

歯科医師には人間の身体を削るということはどういうことかと考えていただいています。中途半端な技術で削るのはおこがましいことです。日本の職人さんはも のすごく細かい仕事をしていますが、モノを扱う方々でもそうなのですから、人間の身体を扱う歯科医師ならなおさら技術を持っておかなくてはいけません。歯 は一度、削ると、元の形には絶対に戻りませんから、一球入魂ならぬ、一削り入魂です。自分が人間の身体に侵襲を加える資格があるのかと常に自分に問いなが ら、私と一緒に技術の研鑽への努力をしてほしいです。どんなにキャリアがある方が代診に来られても、これを真摯に受け止めてくださるように、お話ししてい ます。
そのために、模型での練習をできる限りしています。必要最小限の切削量で綺麗なものを作れるのか、初心に返ってほしいのです。自信のない方 には見学のうえで練習してもらい、自信がでてきたら徐々に手伝っていただきます。チームとして目標を持って、純粋に良いことをしたいのです。最近は自然に 同志が集まってくれていて嬉しいです。出会うべくして、出会ったのでしょう。
現在、常勤医師を1人、募集中です。志のある方であれば、性別、年齢、技術を問うつもりは全くありません。

今後の展開

今後の展開をお聞かせください。

妻も歯科医師ですので、妻には妻で夢があると思っています。これまで2人で1軒の歯科医院をやってきて、お互いに気づいてきた部分もありますから、もし余 裕があれば、同じ地域でなくてもいいので、妻は妻の理想、私は私の理想の歯科医院を作るのもあり得るのかなと少し思います。私としては職人気質に憧れま す。知識面を補いつつも、職人でありたいのです。人任せにせずに、自分の技を追求したいですし、誰にも真似できないような技術を持ちたいです。それを引退 する寸前まで研究し続けることが人の身体に触れている者の使命だと思います。全然理想には程遠いですが(笑)。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

現在は歯科医院が乱立する時代です。あとから開業される先生ほど大変です。この辺りも、私が開業したときよりも多くの歯科医院ができましたし、過当競争に なっています。そこで「周りを蹴落とそう」、「ライバルに勝とう」ではなく、自分自身が一つの信念を持って邁進すれば、合う患者さんが必ずついてくるので はないでしょうか。ビジネスチャンスは豊富にあります。だから、ネガティブに捉えないでください。私は大それた人間ではないですし、初めは父や祖父も歯科 医師でしたので自分も歯科医師になるのはつまらないと思っていましたが、実際に歯科医師をさせていただいて患者さんから「ありがとう」と言って頂けて、時 にはお金のみならず差し入れまで頂けたりと、こんな有難い仕事は本当にないです。自分でも人の役に立てるのだと思うと幸せで仕事が本当に楽しいです。これ から開業される先生方も頑張っていただきたいです。

プライベート

プライベートではどんなご趣味をお持ちですか。

仕事が趣味のようなものです(笑)。患者さんには絶対に治って帰っていただきたいという信念があるので、疲れないのかもしれません。ただ、深夜12時までには寝るようにするのが健康法ですね。

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