歯科経営者に聴く ~第一線で活躍する院長から学ぶ~

医療法人社団 日坂会 元町中華街歯科クリニック 伊勢海 信宏 院長

加茂歯科クリニック 外観

神奈川県横浜市中区山下町は横浜港開港にあたって設置された外国人居留地が前身である。現在は再開発計画が進められ、歴史的な建造物を保全しながら、横浜マリンタワー、山下公園、横浜中華街などの魅力あるスポットを活かした街づくりが行われている。
元町中華街歯科クリニックは医療法人社団日坂会が2005年に開業した歯科医院で、みなとみらい線の元町・中華街駅にほぼ直結したグローリオタワー横浜元町の2階に位置する。2階は「クリニックモール ネムース 横浜元町」というクリニックモールで、元町中華街歯科クリニックのほか、内科、婦人科、小児科、整形外科が揃っている。
今月は元町中華街歯科クリニックの伊勢海信宏院長にお話を伺った。

むこうはら歯科医院 向原 正 院長

医療法人社団 日坂会 元町中華街歯科クリニック 伊勢海 信宏 院長

プロフィール

  • 1976年 神奈川県 生まれ
  • 2002年 日本大学 卒業
  • 2002年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 勤務
  • 2003年 日坂歯科クリニック 勤務と兼務
  • 2005年 東京汐留歯科クリニック 院長就任
  • 2007年 元町中華街歯科クリニック 院長就任
  • 【学会 他】
  • 国際インプラント学会AIAI認定医
  • アストラテックインプラント認定医
  • POIインプラント認定医
  • 歯科臨床研修指導医
  • 日本人の歯の寿命をのばす会 会長
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開業に至るまで

歯科医師を目指されたきっかけはどのようなものだったのですか。

両親や両方の祖父が歯科医師で、親戚にも医療関係者が多いので、小さい頃から身近な職業でした。むしろ親戚の中にサラリーマンが少ないので、サラリーマン として働く自分の姿がイメージできなかったですね(笑)。両親から歯科治療を受けていましたし、私が高校生の頃に兄が医学部に進学したこともあって、私自 身もやり甲斐を感じ、医療の道を志しました。

学生時代に思い出に残っていることはありますか。

アルバイトを頑張っていました。家庭教師のほか、パン工場、引っ越し業者、コンビニエンスストア、ファミリーレストランなど、色々な職種を経験しました。 パン工場では2時間、パンをひねって成形し続けたら、今度は2時間、オーブンに入れ続ける流れ作業なのです。システムとしては効率的だと感心しながらも、 人と接したいと切望していました(笑)。
また、アルバイトをする中で、仕事をいくらきちんと行っていてもお客様とのコミュニケーションができていないと、クレームに繋がりやすくなることに気づきました。人との繋がりを構築することの大切さは今の仕事にも役に立っていますね。

卒業後、勤務先を選ばれた理由をお聞かせください。

東京医科歯科大学歯学部附属病院を選んだのは高齢者歯科を学びたかったからです。既に高齢化社会が進展し、高齢者が増加していましたが、高齢者は歯の問題 を抱えている方が多いし、症例も難症例であるケースが少なくないので、高齢者の様々な悩みに取り組んでいこうと思っていました。

2年目からは大学病院と並行して、日坂歯科クリニックにも勤務されたのですね。

日坂理事長は兄の高校の同級生というご縁があり、お世話になることにしました。大学病院ではもちろん患者さんの目線での治療を心がけてはいましたが、当時 はコスト意識などに乏しかったのです。そこで、日坂理事長の教えのもとで広い視野から歯科医療を学びたいと考えました。また、大学病院ではインプラントを 行っていなかったので、インプラントを学びたかったという理由もあります。

勤務先で学ばれたのはどんなことですか。

大学病院は症例が豊富なので、どんな患者さんにも対応できる力を身につけることができました。高齢の患者さんと話すと、患者さんから「もっと、こうしてい れば」という後悔を伺う機会が多いのです。悩みを抱えたまま、遠くから来院される患者さんを見て、「30代、40代の人たちがすべきことを伝えたい」と思 うようになりましたね。そういった経験から、今はカウンセリングにじっくり時間をかけて、それぞれの歯がどういう状態なのか、抜歯に近づいている歯なのか どうか、どういうケアをすべきかなどを話しています。
それから、日坂歯科クリニックでは患者さんに寄り添い、分かりやすく説明する方法も学びました。歯科医師は一生懸命に説明しますし、説明不足だとは思って いないものなのですが、実際は患者さんに伝わっていないこともあります。そういったギャップをいかに埋めていくのかという実践を積み重ねましたね。

元町中華街歯科クリニックの院長に就任されたいきさつはどんなことだったのでしょう。

日坂歯科クリニックで学んだあとで、日坂会の東京汐留歯科クリニックの院長に就任しました。東京汐留歯科クリニックは日坂会が法人として出した初めての分 院なのです。その後、元町中華街歯科クリニックが開業しましたが、初代の院長がご実家の歯科医院を継承されることになったので、私が2代目の院長として着 任しました。私はもともと横浜市出身ですし、汐留のようなオフィス街よりは住宅街で診療したいという思いが強かったので、異動は嬉しかったですね。

日坂会が分院の開業地として、こちらの場所に決められた理由をお聞かせください。

日坂理事長も神奈川県出身ですし、横浜での開業は視野に入れていたのでしょうが、みなとみらい線ができたことが大きかったようです。元町・中華街駅にほぼ直結したビルの中にクリニックモールを作るということで、この場所を選んだのだと思います。

開業地の第一印象はいかがでしたか。

駅にほぼ直結していますし、クリニックモールである点が好印象でした。歯科は内科と一緒に行う分野もありますので、患者さんの利便性が高いのがいいです ね。「今日は病院の日」とおっしゃる患者さんも多く、モール内の内科や整形外科に通っていらっしゃいます。小児科との連携もありますし、婦人科とは妊婦さ んの薬に関する連携を行っています。

設計、レイアウトの工夫などをお聞かせください。

以前は青と白で清潔感を打ち出した内装だったのですが、私が院長に就任してから、木目を活かし、優しい印象を受ける内装に変更しました。私はハイキングが 趣味で、自然が好きなので、木目を取り入れたいと思っていたのです。改装のため、数日は休診にしましたが、カウンセリング室も新設しましたし、患者さんか らも好評です。ユニットのチェアで話すよりも、カウンセリング室で話す方が相談しやすいと言われますね。このときの改装で、チェアも4台から7台に増設し ました。

院長就任にあたってはどんな苦労がありましたか。

汐留では歯科衛生士や歯科助手があまり定着しなかったのです。そこで、私自身が変わらないといけないと思いました。自分の目線で断定することを避け、相手の意見を聞くようにしました。スタッフと個別に話す機会も、全体でのミーティングも増えましたね。

競合も多いですね。

この場所は海がすぐ近くですから、診療圏が円にならず、半円なのです(笑)。しかし、狭いエリアにも関わらず、みなとみらい線の元町・中華街駅からJR根 岸線の石川町駅までの間に、私どもより後発の歯科が5、6軒もあります。そうなると差別化が必要ですから、私どもとはどんなクリニックなのかという発信を 行わなくてはいけません。そこで、「歯の寿命をのばす会」を立ち上げ、サイトなどを通して、どうして歯がなくなるのかといった情報を伝えましたら、患者さ んの反応が変わってきましたね。治療が終わってからの日々を少しでも長くするために、予防歯科に力を入れることにしました。子どもさんには無料でフッ素塗 布を行い、ホームケアの効果なども話しています。お蔭様で、最近では予防を行ってくれる歯科だという認識が広がってきたようです。

院長就任にあたってのコンセプトとはどのようなものだったのですか。

子どもさんから高齢者の方まで、楽しく来られる歯科医院にしたいというものです。歯科には保険診療と自費診療がありますが、どちらかに限定してしまうと、 患者さんを限定してしまいます。子どもと親が通っている歯科医院が異なるというのも不自然ですし、家族で来られる歯科医院を目指しました。歯科治療はスト レスがかかるものですし、それをどう軽減するかが課題ですね。初診の患者さんには治療にあたって不安なことをスタッフが尋ねたり、歯科医師に言えないよう なことも話してもらったり、痛くない麻酔を導入したりといったことを行っています。

経営理念

経営理念をお聞かせください。

患者さんがほかの方を紹介したくなる歯科医院でありたいです。それは治療だけではなく、スタッフの対応や歯科医院の雰囲気、滅菌などの安全性も含めてのことですね。日頃から課題を細かくリストアップし、スタッフ全員で改善に努めています。

診療方針

診療方針をお聞かせください。

現在の状態を改善していくことに加えて、内在している将来のリスクを知っていただくことを大切に考えています。歯科医院に通院することは患者さんにとって は面倒なことですので、意味を感じ取っていただきたいのです。「ここに虫歯があります」だけしか言わなかったら、将来のリスクまで分からないですからね。 そのうえで治療のテクニックがあれば、治療の中断率は下がるし、アポイントメントも埋まっていきます。ほかの歯科医院から移ってきた歯科医師は「こんなふ うに説明するのですね」と驚いていますよ。もちろん、そういった話し方についてはミーティングで具体的に教えています。

患者さんの層はいかがですか。

40代から50代にかけての女性の患者さんが多いですね。地元にお住まいの方がほとんどですが、少し離れた本牧という地域からバスでいらっしゃる方もいますよ。高齢者の方も来られますし、このあたりは若いファミリー層が多く住んでいるので、子どもさんの来院も目立ちます。

自費と保険の割合について、お聞かせください。

50%ずつといったところでしょうか。私としてはちょうどいい割合だと考えています。自費診療のみの歯科医院にするつもりはありませんでしたし、どんな方 でもリラックスして通院できる歯科医院でありたいです。ただ、レベルの高い治療を求める方もいますし、自費診療が充実していれば、保険診療の方にも高い サービスを維持できますので、自費診療も疎かにしたくはありません。
私どもの歯科医師がほかの施設でも勤務しているのですが、そちらの自費診療部門で表彰されたそうです。私どもで教育されたことをほかでもしているだけだそ うですが、決して押し売りをせず、「なぜ、この神経を残すのか」といった話をステップを踏んで行っていると聞き、嬉しかったですね。

増患対策

どのような増患対策をしていらっしゃいますか。

ホームページのほかは元町・中華街駅に看板を出しています。ホームページは常に内容を充実させていくことに努めています。 また、私どもの診療方針に共感してくださる方を増やしたいと思っていますので、歯に対する情報を提供するための小冊子を作り、患者さん全員に差し上げてい ます。

スタッフ教育

若手の歯科医師の育成方針についてお聞かせください。

一般的な保険診療をしっかり教えています。私どもへの入職希望者はインプラントをしたいという人がやはり多いのですが、インプラント以前にラポールが取れていないといけません。私は法人内でも教育を担当していまして、患者さんへの対応や話し方などを重視しています。
ただ、丁寧な話し方の延長線上に自費診療があるとは考えていません。患者さんに何を伝えるかが重要なのです。患者さんが「この先生は他とは違う」と感じる ことができるような話し方を教えています。技術も大事ですが、それ以外の要素の中で患者さんの理解がないと、歯科医師も損をしますし、開業後も苦労しま す。開業後は技術と話し方の両輪がうまく回っている歯科医院を作ってほしいと願っています。

歯科衛生士、歯科助手への教育はどのようになさっていますか。

歯科衛生士は有資格者ですので、歯科医師に近いところでの技術を教えています。患者さんは歯周病主訴でいらっしゃるわけではなく、虫歯でいらっしゃる方が ほとんどですので、歯周病の自覚がありません。そこで、歯科衛生士の仕事により、患者さんにこのギャップを埋めていただけるようにしたいのです。ただ、患 者さんにとっては歯科衛生士の立ち位置は歯科医師でも助手でもないという微妙なものですし、歯科衛生士の自覚を促すためにも、私どもでは名刺を持たせてい ます。

今後の展開

今後の展開について、お聞かせください。

現在、医局にしているスペースをリニューアルし、チェアを2、3台、増設したいと考えています。今後は私どもに共感してくださる患者さんをより増やしていきたいですね。共感してくださる患者さんの治療はお互いにとってやりやすいですし、そういう患者さんを継続的に診ていきたいです。

開業に向けてのアドバイス

開業に向けてのアドバイスをお願いします。

自分が見えていない若手歯科医師が多い気がします。自分の状況を客観的に把握しましょう。歯科医師としての技術力とコミュニケーション能力は別のものですので、少しずつバランスよく取り組むことが大切です。
今のご自身が1カ月に診ている患者さんの数や点数を把握していますか。この点数から勤務先の歯科医院のネームバリューを差し引きして考えないと、開業後の 点数は予想できません。社会からの評価は常に厳しいものであり、歯科医師の名前で患者さんを呼べるほど、甘くはないのです。勤務先の院長先生が開示されな いのでしたら仕方ありませんが、そうでないなら自分の点数を知っておきましょう。私どもではノルマを設けているわけではありませんが、勤務医の点数は全て オープンにしています。したがって、徹底的に教育してくれる歯科医院に勤務した方が開業後も成功するはずです。
開業にあたってはスタッフのマネージメントやホームページの知識なども必要です。ほかの歯科医院のホームページを見るときにも何がいいのかをメモするなど、単に「綺麗なサイトだな」という感想に終わらせず、様々な発見をしていきましょう。

プライベート

プライベートの時間はどんなことをして過ごしていらっしゃいますか。

高校生のときにテニス部に入っていたのですが、20年ぶりにテニスを再開しました。今はスクールに通っています。それから登山やハイキングですね。60代 の患者さんとお話をしていて勧められたのがきっかけです。最初は鎌倉の手頃な山から始めたのですが、今は天城山などに登っています。緑を見ると、リラック スできますね。

【タイムスケジュール】

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  • 【医療法人社団 日坂会 元町中華街歯科クリニック平面図】
    間取り図